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東日本大震災からの復興と人口減少時代の国土のあり方

KEIO SFC JOURNAL Vol.16 No.1 東日本大震災からの復興と人口減少時代の国土のあり方

2016.09 発行

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特集

東日本大震災からの復興と人口減少時代の国土のあり方

特集招待論文
  • 東日本大震災の津波による被災と生態系を基盤とした防災・減災

    一ノ瀬 友博 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    近年急速に注目を浴びている生態系減災の日本における位置づけを解説し、東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市を対象に、ハビタットが開発され失われたことが被害を拡大させたことを論じた。2011 年の津波により浸水した市中心部は1913 年から2011 年の間に、急激に都市的土地利用が増加し、逆に水田が激減した。その結果として気仙沼市中心部において1140 億円以上の被害を被ることになった。人口減少時代においては生態系減災を活用し、自然立地に適した土地利用を行う必要がある。

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  • 共創型復興まちづくりの実践とレジリエンスの形成

    厳 網林 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    ロブ・ロヘマ (チッタイデアーレ代表/ スウィンバーン工科大学デザインイノベーションセンター非常勤教授)
    大場 章弘 (慶應義塾大学SFC 研究所上席所員)
    ルク・ミドルトン (EME デザイン・ディレクター)
    金森 貴洋 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)

    東日本大震災から 5 年が経ち、さまざまな復興の取り組みが報告されている。一方、復興は遅れているとの声も多い。今回の復興は大規模、広域なだけに全体像が掴みにくい。本稿はレジリエンスの視点から災害の特質、復興のバリアをレビューし、南相馬市と気仙沼市における復興デザインワークショップの実践に基づいて共創型復興まちづくりのアプローチを提示した。このアプローチは中間支援組織、市民コミュニティ、空間計画、復興プロジェクトという4つの要素があって、協働して地域に根ざした復興ビジョンを形成するものである。デザインワークショップは共創の場を提供し、空間計画は地域固有の資源を配置し、復興プロジェクトによって具体化する。中間支援組織は行政、市民、専門家をつなげ、復興ビジョンの実現を目指す。今後、事例を増やしてこのアプローチの有用性をさらに検証していく。

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  • 福島第一原発事故の疫学的知見

    古谷 知之 (慶應義塾大学総合政策学部教授)

    本研究の目的は、福島第一原発事故後の環境放射線測定と可視化及び疫学的解析に関する、筆者の経験の一部を紹介することにある。具体的には、(1) リスクコミュニケーションにおけるデータサイエンスの可能性と限界について指摘すること、(2) 浜通り地域(南相馬市など)を中心とする病院で実施された健康影響被害調査(内部被曝調査)データの解析事例を紹介すること、(3) 避難者と帰還者の健康影響被害の差異に関する解析事例を紹介すること、である。

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  • オーストリアから見た東日本大震災

    ヴィルヘルム・ヨハネス (ウィーン大学東アジア研究所講師)

    本文では東日本大震災をオーストリアの現代史を通して、なぜ、「フクシマ」とメトニミー化したかを若干説明し、オーストリアの気象台などを例に、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の後の対応を記録した。ツェンテンドルフ原子力発電所の稼働に関わる論議によって、原子力政策そのものが失敗したオーストリアでは、その頃から原子力に反対する運動が芽生え、チェルノブイリ原子力発電所事故以降までの過程に原子力に対する国民的な反対姿勢が形成されていったため、東日本大震災の直後から放射能への関心が高かった。一方、本文の後半は、日常生活の質的水準が高いオーストリアの首都であるウィーン市から三陸の復興、街づくりや生活環境の向上に向けてどの様なヒントが得られるのか検討した。

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  • 防災・復興における主体の回復

    大木 聖子 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    本稿では最初に、東北地方太平洋沖地震によって露呈した地震学の限界を示し、その限界を地震学コミュニティが自覚していなかったことに起因する震災被害の拡大について述べる。その上で、科学や技術の限界を踏まえ、それを乗り越えるために必要な防災・減災のあり方を、当事者が主体的な主体となって表舞台にあらわれることの重要性という、矢守・宮本(2016)の観点から概説し、防災教育の事例を示す。最後に、主体不在の復興は無力感や依存性を被災地にもたらすことを指摘し、部外者である我々がどのように被災地の復興にかかわるべきかについて提言する。

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  • 大規模災害時の支援活動における情報技術の役割

    宮川 祥子 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)

    情報技術(IT) は、大規模災害時の意思決定に必要な情報の入手・分析・活用に不可欠であるが、災害マネジメントに十分にIT が活用されているとは言いがたい。民間支援団体を対象としたIT 活用の実態と課題に関する調査の結果、80% を超える団体が災害マネジメントにIT を導入している一方で、IT 担当者の人数やスキルの不足、情報を収集・分析・共有する仕組みの不足が課題であることが明らかになった。これらの課題を解決する新しい取り組みとして、専門家による組織的なIT 支援を取り上げ、その可能性と求められる体制について考察した。

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特集研究論文
  • 集団移転団地における高齢者の徒歩アクセシビリティ評価 -東日本大震災における宮城県気仙沼市の事例

    金森 貴洋 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
    厳 網林 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    東日本大震災から5 年が経ち、津波被災地では集団移転が完了しつつある。究極的な津波予防対策である集団移転によって安全性が確保される一方で、高齢者の暮らしは大きく変容することが予想される。本稿では、集団移転によって高齢の移転参加住民の移動面において、どのような影響が生じ得るのかを明らかにした。具体的には傾斜・身体機能による影響を反映した身体負荷量を算出し、移転先から最寄り公共交通機関までの徒歩アクセシビリティ評価を行った。分析の結果、9 割の団地がバス停徒歩圏外に立地していることが明らかになった。

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自由論題研究論文
  • 基本モーション知識を用いた慣性センサの姿勢推定におけるインテリジェントなドリフト低減

    ブロック・ハイケカトライン (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    本稿では,ヒトの運動についての事前知識に基づいて慣性センサによって姿勢を復元するうえで必要とされるそのドリフト軽減方法を議論する。データの処理過程においてセンサデータにはノイズが必ず伴うが,角度推定の精度は運動固有のパターンに強く依存している。そこで我々は,角度推定の精度を上げるために,角速度の大きさと運動の複雑さを考慮した柔軟なドリフト補償方法を推定フィルタに付加した。運動に関する事前知識を用いることで、ドリフト補償のためのアノテーションが容易に自動化される。我々のドリフトの補償方法は十分な精度をもたないセンサシステムにおいて高精度でヒトの運動を分析するための一手法として将来貢献できると考えられる。

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  • SKLタグトラップ法 -二量体型転写因子およびSmadにおける機能阻害法の構築

    佐藤 友香 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
    松川 晋也 (理化学研究所多細胞システム形成研究センター体軸動態研究チーム研究員)
    黒田 裕樹 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    ペルオキシソーム移行シグナル1 (PTS1) とはタンパク質のC 末端に存在するセリン-リシン-ロイシンの3 アミノ酸(SKL) のことである。我々は、二量体型転写因子の働きを阻害する初めての手法としてSKL タグトラップ法を構築することにした。脊椎動物の背側化を導くもしくは腹側化を導くホメオボックス分子、それぞれSaimois もしくはVent1 とVent2 についてこの手法を試みた結果、いずれの場合においてもその有効性が確認された。さらに、この手法は転写因子Smad に対しても効力を示すことが判明した。以上より、SKL タグトラップ法は両生類胚において有効な二量体、三量体、さらには多量体形成型転写因子の機能を阻害する手法であると言える。

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  • TOEFL問題内容リコールのための聴解ストラテジーとノートテイキングストラテジー -学習者の母語と英語熟達度が与える影響について

    リュウ・ウンリュウ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    本研究は、第二言語としての英語学習者のL2 聴解ストラテジーとノートテイキングがTOEFL リスニング問題の内容のリコールにどのように役立てられているのかを明らかにしたものである。学習者の英語熟達度レベル(中級・上級)と母語(中国語・日本語)を独立変数とした。熟達レベルが高いと、講義の中の接続表現に着目するなど、内容理解のための工夫がなされ、また母語の影響がノートテイキングに表れることも分かった。本研究結果はリスニングの授業の教案作成の際に参考になり得ることから、理論的貢献に加え、教育的示唆も提供できると考える

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自由論題書評論文
  • ヒト-昆虫研究の展開 -L. J. ムーア・M. コスト『BUZZ』を中心に

    渡邉 悟史 (愛知学泉大学現代マネジメント学部講師*)
    *投稿時の所属は、慶應義塾大学SFC 研究所上席所員

    ヒト-昆虫研究は近年欧米の人文学者・社会科学者の間で現れつつある学際的な研究領域である。その特徴は、現代のヒトと昆虫の関係を探求することによって、現代社会のあり方の再検討につなげようとする点にあり、その根底には、昆虫はヒトと共に世界を作りだし、世界に参与し、そして世界から創りだされるという共通認識がある。本稿ではこの新しい研究領域をL. J. ムーアとM. コストによる『BUZZ』を中心に検討し、現代社会でヒトと昆虫の関係がどのように変容しているのか考える。そして、ヒト-昆虫研究の目指す方向性として、未来のヒトと昆虫の在り方を根本から問い直すことを提案する。

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