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- KEIO SFC JOURNAL
- Vol.15 No.2
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ニューロ・セキュリティ -「制脳権」と「マインド・ウォーズ」
土屋 貴裕 (世界政経調査会国際情勢研究所研究員 / 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員) 脳・神経科学、認知心理学の分野における研究が進むに従って、陸・海・空・宇宙・サイバーに次ぐ「第6 の戦略領域」として、人工知能や人間の脳(ブレイン)、精神(マインド)、神経(ニューロ)が注目されている。そこで、本稿では、中国人民解放軍内で提起され始めた「制脳権」と、米国における「マインド・ウォーズ」、「ニューロ・ウォーズ」の概念とを比較した上で、現実の脳・神経科学、認知心理学研究の安全保障・軍事分野への応用と、それがもたらす「ニューロ・セキュリティ」の将来について理論的考察を行う。
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南シナ海問題の軍事的側面と戦略的効果
布施 哲 (テレビ朝日政治部記者) 南シナ海における中国による人工島埋め立ては南シナ海における人民解放軍の戦力投射能力の強化や海上交通の管制権にもつながり得る可能性を秘めている。それにより中国が米軍の南シナ海へのアクセスを制約、あるいは米国の同盟国の海上交通路の管制権を掌握することになれば、これら同盟国に対する中国の政治的影響力は格段に強まり、米国主導の地域秩序の一角が揺らぐことを意味する。日本はリソースの制約や定量的な国家利益の判断も踏まえながら南シナ海問題という新たな戦略的課題に対処することが求められている
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宇宙の軍事利用における新たな潮流 -米国の戦闘作戦における宇宙利用の活発化とその意義
福島 康仁 (防衛省防衛研究所研究員) 本稿では、1990 年代以降に米国が展開した主要な戦闘作戦の分析を通じて、宇宙の軍事利用に生じている潮流の変化を明らかにする。湾岸戦争からイラク戦争の間に、宇宙システムの果たす役割は単に作戦を支援するものから、その不可分な構成要素へと変化した。こうした米国の戦闘作戦における宇宙利用の活発化は、宇宙の軍事利用に新たな潮流をもたらし、他国も米国に追随し始めている。より長期的には、米国や米国の潜在的な敵対者による宇宙への依存深化が、宇宙利用をめぐる戦闘の活発化を促す要因となる可能性がある。
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米国におけるサイバー抑止政策の刷新 -アトリビューションとレジリエンス
川口 貴久 (東京海上日動リスクコンサルティング株式会社主任研究員 / 慶應義塾大学SFC研究所上席所員) サイバー空間で抑止は機能するのか? どのような条件・環境下でサイバー抑止は機能するのか? 本稿は米国の外交・安全保障政策におけるサイバー抑止概念の変遷を詳述しながら、この問いに答える。米国の外交・安全保障政策における「サイバー抑止」の概念はこれまで一貫性のないものであったが、それは米国が環境変化や技術革新をうけて、サイバー抑止政策を刷新してきた結果である。刷新の背景にはサイバー空間の生来的課題である「アトリビューション」「レジリエンス」があり、これらによって、サイバー抑止は効果を上げつつある。
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国連の平和活動の新展開とエンジニアリング・ピース
本多 倫彬 (キヤノングローバル戦略研究所研究員) テロとの戦いの時代を経て中東・北アフリカ地域を中心に終わりの見えない内戦が生起している。この中から誕生したイスラム国が、世界的な脅威の震源となっているように、破綻国家の存在は国際秩序そのものを揺るがしている。言い換えれば、現代世界の大きな安全保障の問題として、持続可能な国家を創る平和構築の課題が再び浮上している。こうした時代の中で、平和構築という概念を生み出し、その実践に取り組んできた国連の平和活動は、これからどのようになっていくのか。また平和活動の中で軍隊の担う役割はどのようなものになるのか。本稿は、近年の国連の平和活動を巡るいくつかの動きを検討して、その現代的様相を明らかにする。その上で国連の平和活動の中での軍隊に焦点を移し、工兵によるエンジニアリング・ピース(Engineering Peace)論を再検討しつつ、その現代的役割・機能を考察する。
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核不拡散レジームの変容過程 -なぜインドへの民生用原子力協力は拡大したのか
川口 俊輔 (日本経営システム株式会社マネジメントコンサルタント) 本稿は、核拡散防止条約(NPT)を中核とする核不拡散レジームが、どのような条件で「変容」するかを明らかにし、核不拡散レジームの発展と衰退への理解を深める事を目的とする。最初に、オラン・ヤング(Oran R. Young)の国際交渉モデルを踏まえ、変容の条件を2 つ提示する。次に、「インドへの例外的な民生用原子力協力」を取り上げ、多国間交渉の過程を概観する事で、なぜNPT の外部アクターであるインドとの民生用原子力協力が国際的に拡大したかを考察する。最後に、対印原子力協力という新しい政策手法を、核不拡散の観点から評価検討する。
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『世界の軍用犬の物語』 ナイジェル・オールソップ 著/河野 肇 訳、エクスナレッジ、2013 年刊
評 本多 倫彬 (キヤノングローバル戦略研究所研究員)
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第一次台湾海峡危機直後における中国の香港政策
廉 舒 (慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師) 第一次台湾海峡危機後、ジュネーブ会議以来中英間の良好関係は徐々に冷え込んでいった。この時期に香港で起きたカシミールプリンセス号事件及び九龍騒動について、中国は厳しい抗議を表明しながらも、直接介入はせず外交交渉によって問題解決に臨んでいた。この時期における中国の香港政策の目標は、国民党工作員の排除であり、香港の安定である。香港の姿勢には、反大陸の拠点にならない限り、イギリスの香港支配を黙認するという中国外交における実用主義的な要素が見られる。
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コートジボワール共和国における国民皆保険と連帯に関する議論
安孫子 悠 (コートジボワール国立フェリックス・ウフエ=ボワニ大学人文・社会科学部門博士課程) 本論文では、今日の地域安全保障の柱の一つが保健医療体制であり、さらにその要となるのが医療保険制度であるとの認識から、その確立に苦慮する西アフリカのコートジボワールにおける現状の分析を新聞記事の調査を通じて行った。記事で目についたのは、制度推進者たち(政府)が連呼する「国民連帯」の言葉であるが、このことが明らかにするのは、財政や制度設計といった実務上の問題と並んで、おそらくはそれ以上に、この制度を支えるべき「社会連帯」の意識の未成熟と漂流状態こそが、この制度導入の妨げとなっているという事実である。
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