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世界を救え~SFCバイオの挑戦

KEIO SFC JOURNAL Vol.15 No.1 世界を救え~SFCバイオの挑戦

2015.09 発行

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特集招待論文

    【第1章 SFCが先導した生命科学】

  • SFCバイオと先端生命科学研究所の歩み

    冨田 勝 (慶應義塾大学環境情報学部教授 / 慶應義塾大学先端生命科学研究所所長)

    慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと鶴岡タウンキャンパス(先端生命科学研究所)では、ハイスループットな分析技術で生体情報を網羅的に取得し、その大量データをコンピュータで統合、理解、予測する「統合システムバイオロジー」という新しいパラダイムを開拓してきた。その独創的な生命科学の歴史と今について述べる。

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  • SFCにおけるバイオインフォマティクスの歩み -これまでの20年間と今後

    斎藤 輪太郎 (カリフォルニア大学サン・ディエゴ校医学部プロジェクト研究員)

    本稿では慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)におけるバイオインフォマティクスという分野の20年間の開拓史を簡潔に振り返る。特に(1) ゲノム上の境界領域(転写される領域とされない領域の境界等)を認識する分子メカニズムはどのようなものだろうか? (2) コンピュータを用いて如何にゲノムワイドな分子間相互作用ネットワークから新たな生物学的知識を抽出するか? という2点を主なテーマとして採り上げた。この分野が現在抱える問題点や今後の方向性についても触れたい。

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  • E-Cellプロジェクト20周年

    高橋 恒一 (理化学研究所生命システム研究センター生化学シミュレーション研究チームチームリーダー)
    内藤 泰宏  (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    佐野 ひとみ  (慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    E-Cellプロジェクトは、1995年の発足以来一貫して、その究極のゴールを全細胞シミュレーションに定めている。本稿では、E-Cellプロジェクトの発足から、汎用的な細胞シミュレーション環境の実現を目指したE-Cell Systemの開発、仮想的な自己維持細胞を始めとする様々な細胞のモデル構築、そして、代謝、遺伝子発現、信号伝達の統合シミュレーションの実現を目指したE-Cell System Version4の開発までの軌跡を辿る。

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  • メタボロームが解き明かす生命のシステム

    曽我 朋義 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    平山 明由 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教)
    杉本 昌弘 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)

    生体内に数千種類存在する代謝物(メタボローム)の網羅的な解析は、生命科学の基礎研究の発展のみならず、医薬、食糧、環境、エネルギーなど人類が直面している問題に有効な解決策を齎すのではないかと期待されている。我々が開発したキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いたメタボローム解析は、細胞や組織中に存在するイオン性代謝産物の一斉分析を可能にした。本法によるメタボローム解析技術と医薬研究、食品研究の応用例について概説したい。

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  • 標的実験に向けた細胞シグナル伝達とトランスクリプトームワイドな応答の概念化

    クマール セルバラジュ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)

    近年のシステムバイオロジーの取り組みによって、これまでの静的な因果関係では分かり得なかった複雑性が明らかとなっている。我々は、新規ネットワークやグローバルな応答の特性を明らかにするために、細胞の動的な振る舞いに着目した。免疫応答やガン、そして胚発生に関わる有益な細胞のシグナル伝達とハイスループットな転写全体の振る舞いを研究した。そこで我々の成果によって、細胞集団の振る舞いは、線形応答のルールを用いる事でモデル化でき、決定論的なシグナルである事を示した。そしてこれらのルールを用いて、新規のシグナル伝達の特性及び、炎症反応やガンの応答をコントロールするための鍵となるターゲットをコンピューターで予測し、実験的に立証した。さらに、マクロファージによる免疫応答、及び卵母細胞から胚盤胞までの1細胞の胚発生の過程をトランスクリプトームの観点から統計解析した結果、低発現している遺伝子が役割を持っているという興味深い全体のパターンを明らかにした。

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  • 【第2章 健康社会の実現に向けた生命科学】

  • メタボリックシンドロームに胆汁酸代謝を用いて新規治療アプローチで挑む

    渡辺 光博 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 / 慶應義塾大学環境情報学部教授)

    この10年間、我々もその扇動者の一役を担い、胆汁酸に関する研究は飛躍的な発展をなしえた。現在では胆汁酸はGタンパク質結合レセプターや核内受容体のリガンドになり、生体内シグナル分子として生体恒常性に深く関与していることが示唆されている。我々はこれらの経路を明らかにし、その研究成果は脂肪肝、高脂血症、糖尿病、動脈硬化の全く新しい治療ターゲットとなり、1つの糖尿病薬としての認可、そしていくつかの薬剤開発へと進展している。

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  • 未病への挑戦 -健康経営の必要性

    渡辺 賢治 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    武田 華子 (慶應義塾大学総合政策学部4年*)* 投稿時所属

    現在のわが国は高齢化の影響で医療費の高騰が問題となっている。一方企業の健康保険組合は赤字財政に転じており、今後さらに経営が困難になると予測されている。こうしたことから健康経営の必要性が提唱されているが、まだまだ成果を上げるに至ってはいない。しかしながら、先進的に取り組む企業が出始めている。健康経営を推進するためには、1)誰でも取り組めるプログラムの策定、2)人的資本に対する積極的投資、3)個別化プログラム、4)健康状態の見える化、5)組織としての支援、が不可欠と考える。

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  • エコミメティクス創成を目指した腸内環境システム生物学

    福田 真嗣 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
    佐野 ひとみ  (慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    エコミメティクス(Ecomimetics)とは、Biomimetics(生物模倣)の概念を基盤とし、Ecology(生態系)、特に微生物生態系が有する調和システムから学びそれらを適用することで、既存研究分野のブレイクスルー創出を目指す研究アプローチである。人間の腸内にも微生物生態系(腸内細菌叢)が形成されており、健康維持や疾患発症に関与することが近年続々と報告されている。本稿では、腸内細菌叢のエコミメティクス創成に向けた数理生物学的アプローチによる腸内環境全容理解に向けた取り組みについて紹介する。

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  • 食と健康の科学

    若山 正隆 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教)
    ワンピン アウ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)

    近年、日本を含め多くの国々で少子高齢化社会が進行し、社会全体に占める保険医療費の高騰が問題となってきた。このため、より健康な状態で長く生きられることが個々人の問題だけでなく社会全体への負担を軽減させる面でも期待される。これらを実現させる方法として食事の効果的な利用が推奨されており、日本国内においては機能性表示食品制度などの改定も行われた。メタボロミクスは一度の分析で網羅的に多成分を分離・定量を行うことが可能であり、食品等にも活用することができる。また、代謝物質だけでなく、その他のオミクス科学を含め、統合的に栄養学を扱うニュートリオミクスの活用も食による健康維持において重要なアプローチの一つである。本稿では、メタボロミクスおよびニュートリオミクスを活かした「食と健康の科学」の実施事例を紹介する。

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  • 健康なコミュニティづくりの実践的研究 -「からだ館」と「鶴岡みらい健康調査」

    秋山 美紀 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    武林 亨 (慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授) 武林 亨 (慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授)

    筆者らは、地域住民を対象に健康・医療の情報を提供する実践的プロジェクトである「からだ館」がん情報ステーションを2007年に開設、さらに2012年度からは地域住民1万人を25年以上にわたって追跡する疫学研究である「鶴岡みらい健康調査」(鶴岡メタボロームコホート研究)を開始し、健康な地域づくりの担い手として深く踏み込んだ活動を展開してきた。本稿では、それら二つの研究プロジェクトを紹介しながら、地域の患者や住民が社会参加をすることで健康を実現できる場づくり・役割づくりに関する方策を示唆することとする。

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  • 【第3章 SFCが関連するおもしろ生命科学】

  • 21世紀の生命科学におけるRNA研究のインパクト

    金井 昭夫 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    20世紀末から様々な生物種でゲノムの全塩基配列が決定された。各研究分野において、その影響力は凄まじく、人類はこれら生物種の設計図を手にいれたと考えられる。一方、21世紀になってから、設計図の「解読」の途中経過として明らかにされたのは、想像だにできなかった膨大なノンコーディングRNAがゲノムにコードされていたことである。これらのRNAはタンパク質に翻訳されることなく、RNAのままで多様な生命現象に関わっている。さらに近年、古典的なノンコーディングRNAであるtRNA(転移RNA)の研究などにも新しい潮流がおしよせている。

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  • 宇宙生物学入門 -生命の起源、分布、未来を考える

    藤島 皓介 (NASA Ames研究所研究員 / 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)

    私がSFCの先端生命科学研究会で過ごした9年間で実に様々な“生物学”に触れる機会があった。骨格筋細胞のシミュレーションにはじまり、タンパク質の配列解析、極限環境微生物の培養、分子生物学実験、さらには生命システムの進化の研究と、様々な角度から生命現象を見てきた。私が現在、取り組んでいる「宇宙生物学」はその延長上、様々な科学分野(惑星科学、地質学、有機化学、物理学、天文学、人類学など)と生命科学が交わる分野横断的な学術領域であり、3つの大きなテーマ「宇宙における生命の起源、分布、未来」が研究の軸となっている。本論文ではこの新しい学術領域の説明を通じて、一人でも多くの学生や研究者が宇宙生物学に興味を持って参入してくれることを願う。

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  • 循環型社会に向けた微細藻類のポテンシャル

    伊藤 卓朗 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教 / さきがけ、JST)
    仲田 崇志 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)

    栄養欠乏などのストレスにより中性脂質を蓄積するオイル産生藻類は、単位面積当たりのバイオマス生産量が大きく、次世代バイオ燃料の原料として期待されている。実用化に向けては安定生産とコスト削減はもちろんのこと、土地や水、培地成分などの長期にわたる持続的利用が求められる。本稿では、休耕田を再利用した藻類の培養に向けた研究と、代謝改変による高生産株を得るための大規模な代謝解析について紹介する。

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  • クマムシ~極限環境を生きる究極生物

    堀川 大樹 (慶應義塾大学SFC研究所上席所員)
    荒川 和晴 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)

    クマムシは環境ストレスに対する耐性の高さから、多細胞生物の極限環境耐性機構を知る上で有用なモデルとなりうる。著者らはヨコヅナクマムシの飼育系を構築するとともに、同種の標準系統であるYOKOZUNA-1を樹立した。ヨコヅナクマムシは乾燥や放射線などに対して高い耐性を有することも確認された。YOKOZUNA-1のゲノム解析により、およそ19,000の遺伝子が予測された。さらに、ヨコヅナクマムシでは乾眠前後における遺伝子発現変動はあまりみられないが、低分子化合物レベルではドラマチックな代謝応答がおきていることがメタボローム解析によりわかってきた。

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  • いのちの作り方、心臓の作り方

    黒田 裕樹 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    岩宮 貴紘 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)
    森本 健太 (慶應義塾大学環境情報学部4年)

    我々が属する脊椎動物の体が、球体である卵からどのように形成されてくるのかについて、我々の最新の発生生物学の研究成果を解説する。まず、我々が発見した脊椎動物の初期発生過程の中で最初に形成される組織である脊索の形成に必要不可欠な分子を示す。次に、脊椎動物において原腸胚初期に現れるオーガナイザー領域の重要性と、この領域の人工的誘導系を用いた人工生命体形成の可能性を紹介する。最後に、脊椎動物に関する発生学の応用的分野として、万能性を有する細胞を用いた試験管内での心臓形成研究の現状を報告する。

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  • 微生物がもたらす未来

    板谷 光泰 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    柘植 謙爾 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)
    ダグラス マレー (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
    戸谷 吉博 (大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻特任助教)
    中東 憲治 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)

    微生物はヒトには身近な存在であったにもかかわらず、19世紀後半にパスツールとコッホにより証明されるまでその存在すら認知されていなかった。現在は、食品、医薬品からバイオエタノールに至るまで広範な物質生産に利用されている。応用範囲の広い微生物はその種類も生活環境も非常にバラエティーに富んでおり、一言でくくることは不可能である。IAB(Institute for Advanced Biosciences)では開設以来、モデル微生物である、大腸菌、枯草菌、酵母、および実用菌である納豆菌を対象に基礎研究を展開してきた。我々の実績が世界に向けて発信しつづけていることを紹介する。

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  • SFC-TTCK発バイオベンチャー企業 -山形県鶴岡市にキラりと光る先端技術

    大橋 由明 (ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社取締役研究開発本部長)
    菅原 潤一 (Spiber株式会社取締役兼執行役)

    2001年に山形県鶴岡市に産声をあげた慶應義塾大学先端生命科学研究所からは、最新のテクノロジーと研究施設を駆使して毎年多くの研究成果が出ている。バイオインフォマティクスを基軸としてオミクス解析の基盤技術開発から応用研究までを行う、世界でもまだほとんど例のない研究施設として、将来のバイオ産業の中核を担うバイオベンチャー企業をも生み出し、発展を続けている。本稿では、同研究所の技術を背景に設立されたバイオベンチャー企業として、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社とスパイバー株式会社を紹介する。

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  • 【第4章 生命科学世界を取り巻く問題】

  • 若手研究者のキャリアを取り巻く現状と課題

    篠田(小知和)裕美 (文部科学省科学技術・学術政策研究所研究員)

    科学技術イノベーションの創出において重要な役割を担うポストドクター等を含む若手研究者は、大学や公的研究機関における任期付任用等を背景として、厳しい雇用環境におかれている。一方、若手研究者候補としての大学院生に目を向けると、修士・博士課程ともに入学者数の減少が見受けられ、アカデミアの研究者を目指さない者が増加していることが推測される。これらの現状を踏まえ、今後の科学技術イノベーションの促進に向け、博士号取得がキャリアとして選択されるために必要とされる研究環境や支援の在り方について議論する。

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  • 生命科学の研究倫理 -なぜ不正が絶えないのか?

    榎木 英介 (近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師)

    STAP細胞事件は社会的に大きなインパクトを与えたが、医学・生命科学分野における論文捏造事件は多数発生しており、この事件のみの特性に注目するだけでは、問題は解決しない。医学・生命科学分野における研究不正発生率は、研究者比に対する発生率だけみれば、決してほかの分野から突出しているわけではないが、実数は全分野中最大である。著者は、医学・生命科学分野における過度なポスト、研究資金獲得競争、過度なインパクト・ファクター重視、画像加工の容易さといった外的な要因が、研究不正発生に大きな影響を与えていると考える。

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特集研究論文
  • 次世代シーケンサとファージディスプレイ法を組み合わせた高感度抗体スクリーニング手法

    小川 隆 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    宮崎 誠生 (株式会社アーク・リソース事業推進室室長)
    清瀬 紀彦 (鹿児島大学理工学研究科生命科学専攻前期博士課程)
    赤澤 陽子 (独立行政法人産業技術総合研究所健康工学研究部門ストレスシグナル研究グループ研究員)
    高島 瑞紀 (独立行政法人産業技術総合研究所健康工学研究部門ストレスシグナル研究グループ研究員)
    萩原 義久 (独立行政法人産業技術総合研究所健康工学研究部門ストレスシグナル研究グループ研究グループ長)
    井上 直和 (福島県立医科大学生体情報伝達研究所細胞科学研究部門准教授)
    松田 知成 (京都大学流域圏総合環境質研究センター准教授)
    伊東 祐二 (鹿児島大学大学院理工学研究科生命化学専攻教授)
    冨田 勝 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    抗体は免疫システムにおいて重要なタンパク質であり、医薬品分子として期待されている。我々はファージディスプレイライブラリ法のスクリーニング工程に次世代シーケンサを応用し、検出感度の高い新規抗体探索手法を開発した。結果、従来手法で得られたクラスターに加え、新たに二つの抗体クラスターを発見した。従来手法で得られた抗体のパニング後のライブラリ内含有率は9.0%であり、新たに得られた抗体についてはそれぞれ、0.2%、1.1%であった。以上より、本手法は、従来手法より高い感度で抗体を検出可能であるといえる。

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  • ヒト涙液中の微生物および代謝物質の網羅的解析

    村上 慎之介 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    馬場 藤貴 (慶應義塾大学先端生命科学研究所所員)
    ワンピン アウ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)
    福田 真嗣 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
    曽我 朋義 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    藤島 浩 (鶴見大学歯学部附属病院眼科教授)
    冨田 勝 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    涙液は環境要因から眼を保護する役割や、抗菌作用を有することが知られている。ヒト涙液に含まれる代謝物組成はこれまでにも報告されているが、眼疾患との関連は不明である。近年、人体常在菌に関する研究が多数報告されているが、涙液中細菌叢に関する報告はほとんどない。本研究では、健常者とアトピー性角結膜炎(AKC)患者の涙液を用いて細菌叢および代謝物を網羅的に解析した。その結果、涙液中乳酸菌によるAKC発症予防の可能性や、o-アセチルカルニチンの減少および尿素の増加がAKC発症に関与する可能性が示唆された。

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  • 大腸菌機能未知酵素YhhYによる特異的なアミノ酸のアセチル化

    井内 仁志 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    冨田 勝 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    マルタン ロベール (東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授)

    大腸菌はモデル生物であるにも拘わらず、全酵素のうち30-40%はその機能が証明されていない。そこで我々は大腸菌機能未知酵素YhhYの活性を同定することを目指した。まず、試験管内反応の結果、YhhYはメチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンをアセチル化することを明らかにした。次に、yhhY遺伝子過剰発現株のメタボローム解析を行い、YhhYは生体内でもアミノ酸のアセチル化を行っていることが強く示唆された。このように、我々は大腸菌機能未知酵素YhhYの試験管内外での働きを明らかにした。

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  • 腸内代謝物質を標的としたメタボローム解析のための代謝物質抽出条件の比較

    石井 千晴 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    中西 裕美子 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)
    冨田 勝 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    福田 真嗣 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)

    腸管内代謝物質のメタボロミクス研究は、宿主と腸内細菌叢との相互作用を理解する上で重要であるが、その分析手法は一般化されていない。本研究では、ヒト糞便から代謝物質を抽出する際の溶媒や菌体破砕の有無などが、陽イオン性代謝物質プロファイルに及ぼす影響を比較した。検出された141物質のうち溶媒の違いによって29物質、菌体破砕の有無によって7物質の濃度が有意に異なった。ヒト糞便の代謝物質プロファイルは抽出条件によって異なることが示唆されたため、目的に応じて適切な抽出手法を選択する必要があると考えられる。

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自由論題研究論文
  • 原子力発電所と共に生きる -地域住民のリスク理解と不安

    ターレク カトウラミーズ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    過去2年の間に、筆者は福島第1原子力発電所と類似する境遇に置かれている地域住民(静岡県御前崎町の浜岡原子力発電所)に焦点をあてて研究を進め、地域住民は日常生活の中でどのように原子力にかかわるリスクを認知し、それに基づいてどのように判断を下すのか、観察を続けてきた。研究では、地域住民の選択の自由は原子力発電所による補助金やインフラが作る環境の影響などで経済的や雇用に関わる理由上、限られていることがわかった。本稿では、原子力の発展の歴史の文脈と詳細な地域住民の語りを考慮に入れながら、人間の不安定な生活状態(脆弱性)の形を提示する。

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