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次世代の「看護医療」を探る

KEIO SFC JOURNAL Vol.18 No.2 次世代の「看護医療」を探る

2019.03 発行

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特集

次世代の「看護医療」を探る

特集招待論文
1.看護実践開発の挑戦
  • [総説・レビュー論文] がんサバイバーシップを支える看護実践開発

    小松 浩子 (慶應義塾大学看護医療学部長・教授)
    矢ヶ崎 香 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)

    がん治療の画期的な進歩により、社会の中で生活しながら治療を受けるがんサバイバーが増加している。長期的なサバイバーシップケアによる包括的な健康促進が求められる。 本論文の目的は「がんサバイバーシップを支える看護実践開発」について、研究プロジェクトを例にプロセスと成果を示し、課題を展望することである。 当事者の語りの積み重ねは、患者の視点から療養や生活に役立つケアを創り出せると考える。今後は、個別的ケアの実用化を推進することやがんの種類や経過別にがんサバイバーシップを支える看護の効果の検証を重ねていく必要がある。

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  • [研究論文] 抑うつ状態にあるがん患者をケアする看護師のための教育プログラムの開発と評価

    福田 紀子 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)
    野末 聖香 (慶應義塾大学看護医療学部教授)
    宇佐美 しおり (熊本大学生命科学研究部教授)
    河野 佐代子 (慶應義塾大学病院看護部精神看護専門看護師)
    緑川 綾 (慶應義塾大学看護医療学部助教)
    筧 亮子 (東京医療保健大学講師)
    近藤 咲子 (慶應義塾大学病院看護部看護師長)
    内田 智栄 (慶應義塾大学病院看護部看護師長)
    塘田 貴代美 (熊本大学医学部附属病院看護部看護師長)

    がん患者の抑うつ状態を早期に発見し、病状悪化の予防および早期回復を促すための看護師への教育プログラムを作成し、その評価を行った。血液内科病棟に勤務する46 名の看護師がプログラムに参加した。受講前後の抑うつに関する知識得点、患者への対応の困難感得点、コミュニケーションにおける自己効力感得点が受講後に改善しており、教育プログラムに一定の成果があることが明らかになった。

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  • [総説・レビュー論文] 看護基礎教育における患者移動技術教育の課題 -看護師の腰痛予防対策に関する国際比較からの示唆

    山本 亜矢 (慶應義塾大学看護医療学部専任講師)

    本研究では、看護基礎教育における患者移動技術の歴史的変遷をまとめ、英国と豪州の看護師の腰痛予防政策をわが国の腰痛予防対策と比較した。わが国では未だ看護師の腰痛発生率は高く、看護師の腰痛予防は指針や通告といった努力義務に留まっていた。英国や豪州では人の手で行う患者移動を完全になくす法制化を行い、動作や扱う重量など具体的な基準が明確であった。わが国においても英国や豪州で導入されている「ノーリフト」を看護基礎教育から取り入れ、人間工学的視点から安全・安楽な患者移動技術を構築する必要性が示唆された。

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  • [実践報告] 慶應義塾大学における助産教育のはじまりと今

    近藤 好枝 (慶應義塾大学看護医療学部教授)
    辻 恵子 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)
    原田 通予 (慶應義塾大学看護医療学部専任講師)

    本稿は、慶應義塾における助産師教育の歴史を辿り、その変遷を明らかにしながら、今後の教育活動や運営に関して、取り組むべき課題を見出すことを目的とした。 慶應義塾大学の助産師教育は、大正11(1922)年に「慶應義塾大学医学部附属産婆養成所」として開校し、時代の流れのなかで名称や入学者定数、修業年限および運営形態を変更しながら、昭和25(1950)年まで継続した。慶應義塾の助産教育は新制度によりやむなく一時中断することとなったが、平成13(2001)年の看護医療学部開設を機に再開し、現在に至っている。助産師選択コースの現行のカリキュラムの特徴と教育評価に関し、その一部を報告する。社会に応じてリプロダクションの持つ多様性、助産教育のあり方、そして助産師のおかれている状況も変化する。当事者である女性と家族のニーズ、そして社会的要請に応えていくために、慶應義塾の助産教育のあるべき姿を引き続き展望していく必要がある。

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【2. 新たな看護専門職の役割】
  • [学会動向] ゲノム医療の発展と遺伝看護

    武田 祐子 (慶應義塾大学看護医療学部教授)

    遺伝情報解析技術の目覚ましい進歩と共に、医療における診断、治療への応用が進み、ゲノム医療は様々な領域で身近なものになりつつあり、人材育成が急務とされている。看護では、単一遺伝性疾患や先天性の障がい等を中心に遺伝的課題を有する患者・家族へのケアを、看護師・保健師・助産師が担ってきた実績はあるものの、急激な医療の変化に対応の困難が生じている。一方、遺伝看護専門看護師が誕生し、その役割に期待するところも大きい。本稿ではゲノム医療の現状を概観し、その中でも診断・治療共にゲノム情報の活用が急速に浸透しつつあるがん医療に焦点を当て、遺伝看護の展望について述べる。

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  • [実践報告] 小児看護と移植 -移行期支援としての野外教育活動

    添田 英津子 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)

    1989 年、本邦における最初の生体肝移植から約30 年が経過し、多くの子どもたちが長期生存を果たしている。一方で、当時はこのような長期生存を予想する余地がなかったため、ほとんどの子どもたちは小児期から成人期へ移行する支援(移行期支援)を得られないまま時を経ており、子どもたちが成長した今となって、さまざまなアドヒアランスに関する問題が臨床現場で顕在化してきている。そこで、移植を受けた子どもたちに対する移行期支援の一つとして実践してきた野外教育活動について報告する。

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  • [総説・レビュー論文] これからの小児看護 -米国小児看護協会の提言より

    冨崎 悦子 (慶應義塾大学看護医療学部専任講師)

    看護教育において小児看護で大切にすべきことを明らかにするために、文献と小児看護の教科書から小児看護の「課題」を検討した。さらに、米国小児看護協会の提言を参考に日米の現状を比較し、これからの日本の小児看護について考察した。課題は8つにまとめられた。小児看護で大切にするべき内容は、子どもの成長発達や家族と社会への視点、子どもに特徴的な病態生理とヘルスプロモーションなどであった。ケアにおいてはFCC を取り入れていくことの必要性が明らかになった。また、実習は目的を明らかにすることにより、さまざまな工夫ができることが示唆された。

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【3. 看護の価値の探求】
  • [研究論文] 看護におけるケアの再考

    宮脇 美保子 (慶應義塾大学看護医療学部教授)

    本稿においては、医療技術の進歩に伴い、業務の効率化、機械化が進む看護実践におけるケアについて再考する。ケアは、看護の原点であり中核的概念として認識されているが、技術と看護学の進歩により、理論と実践の間で乖離が生じている。ケアは、人間関係の基盤であり、それを支えているのは、看護師としての患者とのかかわり方であり、思索することである。

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  • [総説・レビュー論文] ケアリングの概説

    筒井 真優美 (日本赤十字看護大学名誉教授・特任教授/ 国際交流センター長)

    ケアリングは理論家により、さまざまに定義されている。概念分析では、ケアリングにはケア提供者の知識・技・態度、環境が必要であり、ケアリングにより、人々に癒しや安寧がもたらされるだけでなく、ケア提供者にも癒しがもたらされ、ケアリング環境も創造されることが示唆された。本稿では、ケアリングの動向、定義、背景、研究などを概観した。

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【4. 人々をエンカレッジするアプローチ】
  • [研究論文] 市民ボランティアによる子育て広場の運営実態と継続要因

    金子 仁子 (慶應義塾大学看護医療学部教授)
    佐藤 美樹 (慶應義塾大学看護医療学部非常勤講師)
    吹田 晋 (慶應義塾大学看護医療学部助教)
    三輪 眞知子 (京都看護大学大学院看護学研究科教授)

    市民ボランティアによって行われる「子育て広場」の運営実態と、継続要因を明らかにするため、5 年以上継続している8グループを対象にインタビューを行った。「子育て広場」の実施はほぼ月1回で、7 ~ 22 年継続実施されており、行政から資金の支援を受けていた。「子育て広場」のボランティアは、実施の意義を感じ母親同士や子どもたちとのつながりの形成を実感していた。また、そこでは自発的な役割分担や話し合いが大切にされていた。継続要因には、資金や人手が得られており、実施者側に成果の実感があること、内発的動機付けが得られていることが関連していると考えられた。

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  • [研究ノート] 訪問看護事業所の他機関との情報共有の現状と課題

    永田 智子 (慶應義塾大学看護医療学部教授)

    訪問看護事業所と他機関との情報共有の現状について明らかにすることを目的とし、全国の訪問看護事業所から1,500か所を無作為抽出して郵送調査を行い、669か所から回答を得た。約半数は主治医との情報共有において電子メールやSNS を利用していたが、訪問介護事業所との間では7 割が使用していなかった。ターミナルケア場面での介護支援専門員との情報共有手段は電話が最も多く、訪問介護事業所とは介護支援専門員を介しての連絡や連絡ノートが多かった。特に訪問介護事業所との間での情報共有で電子化が進んでいない実態が明らかとなった。

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  • [実践報告] 患者に学ぶ、患者も学ぶ

    加藤 眞三 (慶應義塾大学看護医療学部教授)

    「患者学」という公開講座を2014 年より信濃町キャンパスにおいて開講してきた。2018年12月の講座で50 回目を迎える。講座は、看護医療学部や医学部などの学生を対象とするだけではなく、医療者そして患者や一般市民をも対象としてきた。医療関係者は患者から学び、患者も対話の中で学んでもらうためである。その目標は患者と医療者が対話をできる場を提供し、両者の対話力を身につけ、そして関係性を見直すことにある。  社会の大きな変化の中でこれからの医療に必要とされるのは、患者と医療者が協働作業として行う医療である。そのためには両者が上下の関係性ではなく、水平に、そしてオープンに話し合える関係性であることが必要となる。公開講座「患者学」の開催により学んできたことを本総説では述べる。

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  • [研究ノート] バーンアウトへの介入 -仕事とうまくつき合うための6 つの戦略の試行

    増田 真也 (慶應義塾大学看護医療学部教授)

    Leiter & Maslach(2005)によって開発された「仕事とうまくつき合うための6つの戦略」を用いて、在宅ケアサービス従事者のバーンアウトへの介入を試みた。研究協力者は一般用マスラックバーンアウト測定尺度と仕事との関係テストに、介入の前後で回答した。介入前の回答結果は、報酬や公平性が最大の問題であることを示していたが、協力者は職場のリーダーシップの問題に取り組むための実践プランを作成した。2ヶ月後に、彼のバーンアウトレベルは明らかに低下した。また、裁量権だけでなく、他の領域の業務上の問題も軽減した。

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【5. 看護医療×テクノロジー】
  • [実践報告] 分野横断的チームによる介護ロボット開発に活用できる評価枠組み案の作成

    太田 喜久子 (慶應義塾大学名誉教授/ 日本赤十字看護大学さいたま看護学部設置準備室特任教授)
    増谷 順子 (首都大学東京大学院人間健康科学研究科看護科学域准教授)
    平尾 美佳 (慶應義塾大学看護医療学部助教)
    真志田 祐理子 (慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科後期博士課程)

    超高齢社会により介護人材の不足も懸念され、介護ロボットへの期待が増している。介護ロボット開発は高齢者の自立支援による生活の質の維持・向上と、介護者の負担軽減の両方をめざすべきである。我々は、理工学、リハビリテーション、看護学の各専門家と開発業者からなる分野横断的なチームを編成し介護ロボットの開発を行ってきた。試作機実証を多角的に検討しながら介護ロボット開発に必要な評価の枠組み案を作成した。さらに、人に優しい当事者感覚を取り入れ生活を豊かにする介護ロボット開発をチームですすめていく予定である。

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  • [研究論文] 看護xFab -臨床ニーズに即応するものづくりによる新しいケアの実現に向けて

    宮川 祥子 (慶應義塾大学看護医療学部准教授)

    3D プリンターをはじめとするデジタルファブリケーションの普及によって、様々な分野で個人のニーズに合った個別のものづくりが可能となった。本論文では、個別性の尊重が重視されるケアの分野において、デジタルファブリケーションがどのように活用できるかについて、現状の分析を行い、さらに実践例として我々の取り組みである「FabNurse」プロジェクトを紹介する。また、この取り組みが社会に広く行き渡るために必要となる技術的・社会的課題についても考察する。

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  • [総説・レビュー論文] メガネ型ウェアラブルセンサーの開発と現場への応用

    大谷 俊郎 (慶應義塾大学看護医療学部教授)
    橋本 健史 (慶應義塾大学スポーツ医学研究センター准教授)

    われわれが共同開発したメガネ型ウェアラブルセンサー(JINS MEME,JINS Inc., Tokyo, Japan、以下WS)は、右の耳掛け部に3軸加速度計、3軸角速度計を内蔵し、また鼻パッドに3点式眼電位計を装備し、メガネを装着することで頭部の動作と眼球運動を計測することが出来る。今回は本WSを用いたランニング動作の解析について計測データの妥当性と信頼性を検証した研究結果を紹介し、合わせて看護医療学部のプロジェクト研究で行ったスポーツや生活現場への応用可能性についても紹介する。

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【6. グローバルヘルスと看護】
  • [総説・レビュー論文] プライマリーヘルスケアと国際保健 -国際保健の100 年と21 世紀に求められるもの

    藤屋 リカ (慶應義塾大学看護医療学部専任講師)

    20世紀初頭に国家の枠組みを超える公衆衛生分野で初となる国際組織が誕生し100 年が過ぎた。第2 次世界大戦後に設立されたWHO による健康の定義は70 年経った現在でも国際的に用いられている。また、1978 年のアルマ・アタ宣言によって提唱されたプライマリーヘルスケアは、すべての人に健康をという目標を掲げ、健康格差の解消という強い目的意識を持つものであった。21世紀において、PHCはグローバルヘルスの最重要課題とされるユニバーサルヘルスカバレッジの達成に不可欠な活動と位置づけられ、その重要性が再認識されている。

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自由論題投稿論文
  • [実践報告] 香港の民間団体と公的団体による難民支援の比較 -難民支援における親密圏の役割

    石井 大智 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)

    筆者はインターンとして香港で難民支援を行なった。そこでの実態を通して、難民支援の文脈で親密圏を創出しようとする民間団体と難民全員のケアが要請される公的団体による支援を比較した。リソースと社会的要請による双方の限界により、民間団体で親密圏を維持し対抗的公共圏を形成するために両者の協力が必要である。

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