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e-ケア型社会システムの形成とその応用

KEIO SFC JOURNAL Vol.9 No.2 e-ケア型社会システムの形成とその応用

2010.03 発行

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特集招待論文
  • 納得を目指したケア支援を行うために

    青木 則明 テキサス大学ヒューストン校健康情報科学大学院アシスタント・プロフェッサー 特定非営利活動法人ヘルスサービスR&D センター理事長

    医療、ケア、健康に関する様々な「支援」の最終目的は、支援を受ける者のアウトカムを改善することである。アウトカムは疾患、状況、個人の嗜好、文化、制度など様々な要因の影響を受ける多様性を含むため、適切な支援を行う上では「納得」が重要となる。納得とは理屈に基づいたものではなく、むしろ感情的なプロセスではあるが、納得を引き出すための理論的なアプローチが存在すると考えられる。本稿では、e-ケアの可能性を十分に活かして、納得を目指した支援を行っていくために、意思決定理論とヘルスコミュニケーションを中心に、知識と経験、そして理論の統合することの重要性について論ずる。

  • e -ケアプロジェクト‐ 潜在化するインフォーマル部門のネットワーク化によるケア力の向上

    南 政樹 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究講師
    竹ノ上 ケイ子 慶應義塾大学看護医療学部教授
    金子 仁子 慶應義塾大学看護医療学部教授
    宮川 祥子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    小林 正弘 慶應義塾大学看護医療学部教授
    太田 喜久子 慶應義塾大学看護医療学部教授

    本論文は、補完性の原理に基づく本人の気づきと人間同士の助け合いを、情報技術による新しいコミュニケーションを用いて実現した複数の「e-ケア」研究をまとめたものである。e-ケアは、新たなコミュニケーションの導入によって、個人、家族、組織、地域が潜在的に持つ「健康であろう」「よく生きよう」とする「ケア力」を向上させ、社会全体をより健康に変化させるというコンセプトである。そのため、医療・看護・福祉・健康における従来のコミュニケーションだけでなく新たなコミュニケーションを合わせて利用することで、個人?個人間、個人?組織間、組織?組織間の新しい相互支援を実現してきた。これにより、政府、自治体、市場原理に基づいたサービス提供でもない、社会に潜在化している「インフォーマル部門」を活用でき、既存のサービスの幅と質を広げられる。そこで本論文では、インフォーマル部門の活用と新たなコミュニケーションによる相互支援の実現性を示すため、ケア力の向上が必要とされる複数の研究課題を「個(エンティティ)」「関係(リレーションシップ)」「基盤(インフラストラクチャ)」の3つのパースペクティブに分類し、それぞれの課題が実施した実証的な研究と結果を示し、それらを総合的にまとめた成果と展望について述べる。

特集研究論文
  • 流産・死産体験者を対象とした e -ケア・システムの構築と活用

    竹ノ上 ケイ子 慶應義塾大学看護医療学部教授
    前田 尚美 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問)
    田所 由利子 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問)
    中北 充子 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科後期博士課程

    目的:流産・死産体験者のためのe-ケア・システムを構築し活用することで、問題解決をはかるとともにケア力向上、健康レベルの向上をはかる。方法:4 つのケア・システム、(1)Web 上掲示板を活用したピア・グループによる相互支援 、(2)対面による相互支援、(3)冊子の作成と頒布、(4)助産師による個別面談を構築し、活用し、評価した。結果:Web 掲示板は、開設以来計9,895 件の書き込みがあり、対面による相互支援を利用した人は218 人であった。冊子は2,000 冊以上が希望により配布された。助産師による個別面談を利用した人は40 人であった。結論:構築された4つのケア・システムのうちオン・ライン・ケアは一時的に現実社会から退避したい人に役立ち、オフ・ライン・ケアは人の温もりを求める人や、現実社会に復帰する準備として、相互補完し合いながら役立っていた。

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  • 青年期を対象とした子育て学習支援プログラムの開発 ‐インターネット上のドラマ制作の試み

    金子 仁子 慶應義塾大学看護医療学部教授
    三輪 眞知子 静岡県立大学看護学部教授 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問)
    増田 真也 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    標 美奈子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    宮川 祥子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    渡邊 輝美 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問) 千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程

    子育て不安が多い原因として、青年期に子どもにふれる機会が少ないことが影響している。本研究では、青年期の人々の多くが利用しているインターネットを使用して、子育てを疑似体験しながら、育児の楽しさや子どもの成長を実感できる子育て学習支援プログラム開発を目的とした。子育ての現状分析からドラマの制作意図を考え、5話からなるドラマをウェブサイトで配信した。34ヶ月間でアクセス数は13万件、視聴するための登録者は129人であった。このウェブサイトに登録してドラマを最後まで見終わるためには、青年期の人々が親となるための学習の必要性の認識をもつことが大切である。

  • 高齢者にとってのハイテク家電の問題点 ‐炊飯器利用時の行動・眼球運動・生体信号の分析に基づく考察

    福田 亮子 慶應義塾大学環境情報学部専任講師

    近年の家電製品は高機能化が進んでいるが、高齢者にとっては必ずしも使いやすいものではない。本研究では高齢者がハイテク家電を利用する際の認知的側面における問題を明らかにするため、炊飯器を例に、これを使用する際の行動分析、眼球運動計測、生体信号計測、インタビューを行った。その結果、高齢のユーザは多機能であること自体よりも、それらの複数の操作ボタンへの割り当てやボタンのネーミングによって混乱することが明らかになった。したがって、明快な機能の割り当てや容易に識別できるボタンのネーミングが求められる。

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特集研究ノート
  • 中高年者が運動を継続するためのウェブサイトの構築 ‐ねっとDE 体操@ホーム

    久保 美紀 慶應義塾大学看護医療学部助教
    小林 正弘 慶應義塾大学看護医療学部教授
    茶園 美香 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    新藤 悦子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    新幡 智子 慶應義塾大学看護医療学部助教
    山下 香枝子 慶應義塾大学看護医療学部教授

    本稿では、中高年者が自宅で気軽に運動を継続するためのプログラム配信サイトを構築するまでのプロセスを報告する。運動を継続する要因の検討、ネット利用実態の調査結果をもとに、体操コンテンツ、コミュニケーション機能、体操日誌で構成した運動プログラムを作成した。次に中高年がこのプログラムをウェブサイトで利用するための配慮点を検討し構築した。さらに配信後の利用状況とその課題について考察した。中高年者のウェブサイト利用に対する関心は高かったが、ウェブを利用して体操を継続するという行動に至るには、課題が残った。

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  • ITを活用した自閉症者の健康バリアフリー

    標 美奈子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    加藤 敦子 慶應義塾大学SFC 研究所所員(訪問)

    自閉症者の中には言葉によるコミュニケーションが苦手で、発病時に診察や治療・検査がうまく受けられないなど、健康管理上の問題を抱える人たちがいる。本研究は、自閉症者の生活を健康面から支援することを目指して、顕在化されにくい自閉症者の健康問題を明らかにし、その結果をもとにITを活用した3つの受診支援プログラムを開発した。3つのプログラムはWeb上に公開し、活用を広げると同時に有効性を検討している。現状では活用可能性があることが示唆された。

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  • 高齢者の歩行能力維持・向上を目指したノルディック・ウォーキングの導入について

    ラウ 優紀子 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問) 東京女子医科大学看護学部講師
    山内 賢 慶應義塾大学体育研究所准教授
    川喜田 恵美 慶應義塾大学看護医療学部助教
    太田 喜久子 慶應義塾大学看護医療学部教授

    ノルディック・ウォーキングによる高齢者の基礎体力の推移、および、通常歩行とノルディック・ウォーキングの両歩行運動における活動量の相違について検討した。ノルディック・ウォーキングにおいては、握力と座位体前屈に改善傾向がみられ、運動意欲への動機付け向上といった心理的効果にも良い影響がみられた。ノルディック・ウォーキングは、通常歩行と比較し「歩行時間の増加」「歩数の増加」「歩行エクササイズ量の向上」「歩行時間あたりの歩数の減少」「歩数あたりの歩行カロリーの減少」「歩行時間あたりの歩行カロリーの減少」があり活動量の違いが見られた。

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  • 社会のケア力向上に資する e-ケアにおけるコミュニケーションデザイン

    西山 里利 慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問)
    茶園 美香 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    宮川 祥子 慶應義塾大学看護医療学部准教授
    西山 敏樹 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究講師

    本研究は、慶應義塾大学e-ケアHRCプロジェクトにおけるICT(Information and Communication Technology)活用の現状と課題を明確化し、社会のケア力向上に資するe-ケアのコミュニケーションデザインについて検討することを目的とする。まず、e-ケアHRCプロジェクトのWebサイト運営に関わる7サブ研究チームに質問紙調査を実施後、Webサイトによる支援に関する機能について内容分析を行った。そして、SFC Open Research Forum 2008でセッションを企画し、テーマ「社会のケア力向上に資するe-ケア世界の拡がり」について討議を行った。その結果、ユーザのニーズ別に5つのオンライン支援タイプとオンライン-オフライン利用の3パターンにより支援していくことの必要性が示唆された。

自由論題研究論文
  • トップテニスプレイヤーにおける「早熟型」と「晩成型」の比較分析

    坂井 利彰 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程
    坂井 紗恵 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究助教

    プロテニス界では、早熟な選手ほどランキングが高くなる傾向があるといわれている。そこで、ATPランキング100位にランクインした年齢に基づいてトップテニスプレイヤーを、「早熟型」と「晩成型」へと分類し、ランキング、試合内容、出場大会の三項目について比較分析をおこなった。その結果、「早熟型」は「晩成型」よりも自己最高ランキングが高くなることを実証し、その要因としてATPポイント制度やワイルドカード制度といった、「早熟型」に有利に働くプロテニストーナメントツアーの仕組みがあることを明らかにした。

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  • サン・シモン思想における「近代性」‐ヨーロッパ「再組織」論を中心に

    中嶋 洋平 フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)政治研究系博士課程

    サン・シモンによれば「可能な最良の政体」は、公益というものを一般的利益と特殊的利益という二つの側面から考慮することのできる政体である。そして近代社会は中世の支配原理たるキリスト教を超える普遍的道徳、すなわち産業社会の人間関係の中で醸成される博愛精神によって一体化される。またエゴという特殊的利益を乗り越えつつ社会の一般的利益を考慮し得る人間により社会の「再組織」は漸進的に行われるだろう。サン・シモンは『ヨーロッパ社会再組織論』を通して自らの近代社会思想をヨーロッパレベルで実現する手法を示そうとした。

  • 現代テロ対策のガバナンス ‐ドイツにおける航空テロ対策を事例に

    中林 啓修 慶應義塾大学 SFC 研究所上席所員(訪問)

    航空交通におけるテロ対策は2001年9月の米国同時多発テロ事件を一契機に、その重要性が再認識された分野である。ドイツにおいては、2005年に航空安全法が採択され、法執行機関や規制官庁、事業者、そして連邦軍等による連携を通じた航空テロ対策が進められている。航空テロ対策を巡る多機関連携は、訓練や対話を通じて強化されると共に、効率性の確保やコスト増への対応を巡って様々な検討がなされている。こうした取り組みや検討を推進する調整機能を航空安全法の枠内で制度化していくことが今後の課題といえる。

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  • ちらりドア ‐ドアの開閉をコンテクストの指標として用いたウェブカメラのプライバシー保護

    児玉 哲彦 慶應義塾大学先導研究センター研究員
    安村 通晃 慶應義塾大学環境情報学部教授

    本論文は、屋内の部屋に置かれたウェブカメラのプライバシー制御のためのちらりドアインタフェース手法について述べる。ウェブカメラ等によって遠隔地と継続的に映像や音声をやり取りできるようになった。一方で、常時接続環境においては映像・音声の公開度合いが必ずしも適切に与えられておらず、結果的にプライバシーの侵害のような問題が発生する。本研究では、ドアの開き具合をセンサーによって計測し、その角度にウェブカメラの映像と音声の公開を対応付けて制御するちらりドア手法の提案を行う。

書評
  • 『病院倫理委員会と倫理コンサルテーション』 ‐D・ミカ・ヘスター編/前田 正一・児玉 聡 監訳 勁草書房 、2009 年刊

    奈良 雅俊 慶應義塾大学文学部准教授
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  • 『危機に立つ日本の英語教育』 大津 由紀雄 編著 慶應義塾大学出版会、2009 年7 月刊

    岡部 光明 明治学院大学国際学部教授
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