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学びのための環境デザイン

KEIO SFC JOURNAL Vol.12 No.2 学びのための環境デザイン

2013.03 発行

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特集招待論文
  • "からだで学ぶ"ことの意味-学び・教育における身体性

    諏訪 正樹 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    本稿は、からだで学ぶことの重要性を説く学び論である。ものごとを体験するとき、自分のからだが相対する「モノの世界」を意識的にことば化し、自分なりの意味解釈を施す"からだメタ認知"の習慣が、からだで学ぶことを促す。他者から聞いたことを鵜呑みにして受け売りのようにしゃべる現代社会の傾向は、からだでの学びに逆行する。この思想は教えることの指針も提示する。教え手は、体験のエッセンスだけを記述して伝えるのではなく、体験の基底をなす「モノの世界」も提示して、学び手がからだで学べる環境を与えるべきである。

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  • マルチヴォーカリティが育む未来への学び

    白水 始 (国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官)
    遠山 紗矢香 (静岡大学技術部技術職員)

    本稿では、未来の学びが準備される学習環境として、一人ひとりの声が行き交い、異なる考えに触れて自らの考えを見直す建設的な相互作用が推奨される「マルチヴォーカル」な環境を提案した。小学生の一授業におけるマルチヴォーカルな学びとそれを複数の学習研究者で分析した事例、及び意図的に構築されたマルチヴォーカルな環境の中で認知科学を学ぶ大学生の事例を検討した。結果、自分の創り上げた考えが多様性に触れて壊れ、それをまた創り直す経験の繰り返しが、未来に亘ってマルチヴォーカルな学びを期待する基盤となることが示唆された。

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  • 「まち観帖」を活用した「学び」の実践

    加藤 文俊 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    諏訪 正樹 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    本論文は、「まち観帖(まちみちょう)」を活用したワークショップについて考察を加えるものである。「まち観帖」は、筆者らが考案した方法論で、まちを観察・記録し、意味づけしながらまちについて語ることで感性開拓の促進を目指すものである。2012年夏に大学生を対象に実施したワークショップを事例に、「まち観帖」による「学び」のプロセスを再考し、実践の文脈においてさらに検討すべき論点の整理を試みた。記述に際しての抽象度の問題やきめ細かいメンタリングの必要性など、実際に「まち観帖」を活用するなかで、利用方法を体得させるためのコミュニケーションに関わる課題が明確になった。

  • 見方を学ぶフィールドマイニングゲーム

    松村 真宏 (大阪大学大学院経済学研究科准教授)

    本論文では、人びとをフィールドの魅力に気づかせる簡単な仕掛けであるフィールドマイニングゲーム(FMG)について述べる。石橋地区および木村地区で行ったFMGおよびその後のグループディスカッションや自由記述アンケートに基づいて、撮影された写真、FMGの長所や短所、ルール、移動経路などについて検討する。これらを踏まえて、FMGが自分視点の魅力を共有する仕掛けによる「見方の学び」を獲得することを述べる。

  • 芸術表現を促すということ-アート・ワークショップによる創造的教養人の育成の試み

    岡田 猛 (東京大学大学院教育学研究科・情報学環教授)
    縣 拓充 (日本学術振興会特別研究員・千葉大学)

    創造的な社会には、芸術家のように創造活動を専門とする「創造的熟達者」のみならず、創造活動について知識や経験を持ち、創造活動を楽しむ意欲を備えた「創造的教養人」がたくさん存在することが必要である。本論文は、アート・ワークショップの中で頻繁に起こる表現の「提案」と「触発」をキー・コンセプトとして、市民に芸術表現領域での創造的教養を身につけさせるための教育実践の理論的枠組みを提案し、それに基づいた教育実践の一例を紹介した。

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  • 社会をデザインする大学-公立はこだて未来大学のしくみと環境

    中島 秀之 (公立はこだて未来大学学長)
    岡本 誠 (公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授)
    田柳 恵美子 (公立はこだて未来大学社会連携センター特任教授)
    木村 健一 (公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授)
    和田 雅昭 (公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授)
    松原 仁 (公立はこだて未来大学複雑系知能学科教授)
    柳 英克 (公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授)
    美馬 のゆり (公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授)

    公立はこだて未来大学は、広域はこだて圏に立地する大学である。地元に求められて設立された公立大学であること、相手とする地域の規模が大きすぎず小さすぎないほどよいサイズであること等の地の利を活かし、地域と連携した多様な教育研究活動を行っている。本稿では、地域における未来大の立ち位置を明確にするとともに、主な活動を紹介し、大学の地域連携のあり方を考える材料としたい。

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特集研究論文
  • 大学体育授業がライフスキルの獲得に与える影響 -単元前の学生のスキルレベルに着目して

    東海林 祐子 (慶應義塾大学総合政策学部専任講師)
    永野 智久 (慶應義塾大学総合政策学部専任講師)
    加藤 貴昭 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    佐々木 三男 (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    島本 好平 (兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教)

    本研究では、単元前の大学生のライフスキルの獲得レベルに着目し、体育授業におけるライフスキル獲得への影響と違いを検証することを目的とした。結果として、ライフスキル獲得のスタートラインやその後の獲得の仕方にも違いがあることが示唆された。スキルレベルが低いほど授業序盤では体育や他者に対する苦手意識が強いために、ブラインドウォークの介入はコミュニケーションに有機的なつながりを作り、ライフスキル獲得に効果的であることが示唆された。

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自由論題研究論文
  • AO入試に対する社会的評価の変遷-新聞紙上における語られ方の分析

    尾室 拓史 (一橋大学大学院社会学研究科修士課程)

    本研究は1989年慶應義塾大学が日本で初めて実施し、以降全国的に拡大したAO入試に対する新聞紙上の語られ方、及び語られ方の変化を追うことを目的としている。調査の結果、AO入試は新聞紙上において4つの時期により語られ方が変化していることが明らかとなり、また、語られ方の変化を通して、その時々の大きな教育的関心の変化が、具体的な教育的施策に対する語り方の変化をどのように起こしているか、ということに対する一例を示すことができた。

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  • MRIを用いた海馬回旋の発達評価-学齢期の健常群と知的障害群の比較研究

    吉野 加容子 (慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)/ 株式会社脳の学校脳環境研究部門)
    加藤 俊徳 (株式会社脳の学校脳環境研究部門)

    海馬は海馬溝を中心に回旋しながら発達するため、その形態的発達は海馬回旋と呼ばれている。胎児の海馬は在胎週数と比例して回旋が進み海馬溝は狭小化していく。発達障害を有する小児において海馬回旋が不充分もしくは停止していることが報告されている。今回、知的障害を有する小児を対象にして磁気共鳴画像を用いて海馬の形態を測定し、知的発達が正常の小児群と比較検討した。対照健常群と比べて知的障害群の海馬溝は左右ともに有意に開大し、海馬縦厚と有意な相関を示した。以上より、知的障害を有する小児の海馬は、海馬回旋遅滞を反映する海馬溝の狭小化遅滞を伴うことを示唆した。

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自由論題研究ノート
  • 衛星画像情報に基づく2011年タイ洪水被害軽減に関する考察

    高崎 健二 (慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問
    田中 修三 (東洋大学理工学部都市環境デザイン学科教授)
    田中 總太郎 (東洋大学工学部大学院環境デザイン専攻客員教授)

    2011年タイ洪水を捉えたチャオプラヤ川下流域の時系列衛星画像を調べた。高水位(2011年10月下旬)から通常水位(12月22日)まで洪水終息に要した期間は2ケ月弱であった。排水が長期に及ぶ理由はこの流域の河川勾配が緩やかなことにある。加えて、バンコック市街を守る堤防が、チャオプラヤ川下流域の排水にとって障害になっている。この論文は、洪水被害軽減策を、地域特性を勘案して3つの柱に纏めた。それらは、第一、洪水予知によるダム貯水の事前放流、第二、森林保護による保水力維持およびダム容量の増量工事や遊水地の建設による貯水能力の強化、第三、既存運河及び新設放水路による排水能力の整備増強である。これらの施策を行う事で洪水時の高水位を下げ、2011年洪水のような大きな被害を普通規模の洪水被害のレベルに低減することが可能である。実際の施策には、明治43年東京大洪水のとき日本政府が採った荒川放水路建設策が参考となる。

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