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- KEIO SFC JOURNAL
- Vol.12 No.1
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日本の国土と社会 - その将来像と課題
大西 隆 (東京大学工学系研究科都市工学専攻教授/日本学術会議会長) 2050年に至る日本の将来に向けた主要な変化は、人口減少社会とアジア諸国の台頭が進む中で、エネルギー問題、低炭素社会の実現を目指す環境問題、さらに災害に強い国づくりを目指した減災対策と取り組んでいくことによってもたらせるといえよう。国土の将来を描くうえで、災害危険地域からの撤退を含んだ減災の推進、一極に偏らない国土のバランスの取れた利用、再生可能エネルギーの利用度合いを高めた持続可能な社会形成、さらに宇宙から海洋までに国土のフロンティアともいうべき最前線の開拓を取り込んでいくことが重要となる。
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ポスト3.11のグローバル社会と地域社会 - 社会イノベーションは日本社会を変えるか
金子 郁容 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授) 井上 英之 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘准教授) ポスト3.11の世界で、日本の社会は本当に変容しているのか。また、そこから見える"日本らしい"社会変化の生み出し方とはどんなものか。 震災後、日本の市民社会は世界に対してよりフラットに開く機会を得た。グローバル社会や日本の社会において、今、起きつつある変化は、個人の もつ根源的な力を生かしながらも、ヒロイックな個人の登場を待つだけではなく、よりコレクティブなインパクトを高める手法を生み出す潮流である。そこに、これからの日本の社会イノベーションの生み出し方の姿が見えてくる。
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環境立国・日本のデザイン
小林 光 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/環境情報学部教授) 池田 靖史 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/環境情報学部教授) 本稿では、2012年度に最終年となる京都議定書への対応を一つの指標に、日本の経済社会のエコ度を評価し、その結果を踏まえた上で、東日本大震災及び広範な放射能汚染を経験した日本が、今後、どんな進路を歩むことが望ましいかを論じる。具体的には、1990年以降の日本の環境取組みが停滞し、環境パフォーマンスに関し欧州主要競争相手国に追い付かれたことを指摘した上、大震災を契機に、近時、環境指向の国内需要が高まっていることから、環境取組みをバネとした新しい経済社会への発展が現実味を帯びてきたことを指摘する。さらに、今後の取組みとして、経済的そして制度的には、環境資源の一層効率的な利用への投資の拡大を、そして、建築、都市計画的には情報技術を応用したデザインによる生活様式からの社会革新を目指した取り組みをそれぞれ論じ、併せて、環境分野のリーダー育成を目指した本塾大学院政策・メディア研究科の教育を紹介する。なお本稿のうち1?8までを小林が、9、10を池田が執筆担当した。
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Scanning the Earth - 福島を中心とした環境放射線モニタリングの取り組み
植原 啓介 (慶應義塾大学環境情報学部准教授) 古谷 知之 (慶應義塾大学総合政策学部准教授) 東京電力福島第一原発の事故以降、専門家や市民団体による放射線の計測が進められている。これらの計測に使われている手法は、それ以前の事故の時とは決定的に異なっている。取得したデータを共有するのにはインターネットが使用され、計算機の高性能化によりベイズ推計を分析に用いることが可能になり、結果を示すためにはGISが用いられるようになった。本稿では、我々が確立したセンサーネットワーク、バギーや無人機を使った計測手法、ベイズ推計を使った分析手法、そしてGISによるマッピング手法等について述べる。
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中国の対日政策 - 東シナ海ガス田をめぐる国内議論と対外政策
マチケナイテ・ヴィダ (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程) 本研究の目的は、東シナ海ガス田問題に対する中国の対外政策とこれに関する国民の意見との関係を明らかにすることである。本研究において国民の意見を検討する際に、筆者は限定された範囲の人々が表現する「公衆意見」(voiced opinions)と、それを含むより多数の人々が表現する「民間世論」(domestic opinion)を区別した。ガス田問題に対する中国の政策は、限定された「公衆意見」ではなく、国民をより広範囲に捉えた「民間世論」を考察した結果なのである。
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分裂議会における官僚の立法準備行動 - 特許庁による法案根回しの実態
松浦 淳介 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程/東洋学園大学人文学部兼任講師) 本稿は、参議院の多数を野党が占める分裂議会の発生が官僚の立法準備行動にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするため、特許庁が2007年7月に分裂議会が発生する前の2006年常会に提出した意匠法等の一部を改正する法律案と、分裂議会が発生した後の2008年常会に提出した特許法等の一部を改正する法律案の立法過程を比較分析した。両法案はいずれも政治的に争点化することなく、野党からの賛成も得て国会を通過した法案であったが、本稿の分析結果は、分裂議会の発生前後で特許庁の官僚の法案根回し行動に大きな差異があることを示した。
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文脈ネットワークを用いた語の多義性解消
岡本 潤 (嘉悦大学ビジネス創造学部専任講師 / 慶應義塾大学 SFC研究所上席所員(訪問) 石崎 俊 (慶應義塾大学環境情報学部教授) 自然言語処理の高度な課題の一つである語の多義性解消のために、連想概念辞書を用いる文脈ネットワークモデルを提案する。これは概念の連想関係と概念間の定量的な距離情報を用いて入力文から文脈ネットワークを作成し、活性拡散により語義を決定する。従来のWordNetを用いる方法と比較し、本提案手法が高い正解率を得た。次の動的文脈ネットワークモデルは、人間が文を読むように文頭から入力語を理解していく仕組みで、多義が解消できるまで順番に文脈ネットワークを拡大させていく多義性解消モデルであり、有効性を確認している。
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『科学技術系のライティング技法』 -小山 透 著、慶應義塾大学出版会、2011年4月刊
評 武藤 佳恭 (慶應義塾大学環境情報学部教授)