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新しい現代中国研究の展開

KEIO SFC JOURNAL Vol.25 No.2 新しい現代中国研究の展開

2026.03 発行

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特集

新しい現代中国研究の展開

特集招待論文・報告

    [総説・レビュー論文]

  • 現代中国の軍事・安全保障に関する研究フロンティア -制度改革・軍民融合・技術覇権をめぐる論点

    土屋 貴裕(京都外国語大学共通教育機構教授)

    本稿は、習近平政権下の中国軍事に関して、軍制改革と統合運用、軍民融合、海洋戦略、新領域(宇宙・サイバー・電磁波)への対応など「国防と軍隊の現代化」の動向を概観する。とりわけマルチドメイン統合とAI主導の指揮統制(C2)の進展、グレーゾーン戦術、量子・極超音速などデュアルユース技術の進展を整理し、OSINTや特許・論文ネットワーク分析を用いた研究手法の枠組みと、輸出管理・規範形成・偶発衝突管理といった政策含意を提示する。

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  • [研究論文]

  • 中国研究におけるテキストデータ分析 -既存の研究課題に対する新たなアプローチ

    マチケナイテ・ヴィダ(国際大学国際関係学研究科講師)

    本稿は、中国政治および対外関係研究において、テキストデータ分析(text-as-data)アプローチ、すなわち計算機支援型テキスト分析(computer-assisted text analysis)の活用を提唱する。まず、中国研究分野における計算的テキスト分析の適用状況を概観し、続いて、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる中国外交部報道官発言を対象とした予備的な意味ネットワーク分析を通じて、その分析手法としての価値を示す。分析の結果、中国の言説において米国が中心的な参照点として位置づけられていること、中国の立場が規範的・道徳的フレーミングによって構築されていること、さらに時間の経過とともに言説の重点が「正義」から「対話」へと漸進的に移行していることが明らかとなった。他方で本稿は、計算的テキスト分析は研究者の解釈を代替するものではなく、研究者による解釈と検証を前提としてそれを補完・強化する方法論であると結論づける。すなわち、理論的関心と研究者の専門的判断に支えられた、厳密かつデータ駆動型の中国研究に新たな研究展開をもたらすものである。

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  • [総説・レビュー論文]

  • 中国研究における客観性と主体性 -加々美光行「コ・ビヘイビオリズム」をめぐって

    田島 英一(慶應義塾大学総合政策学部教授)

    かつて加々美光行は、新たな中国研究のあり方として、「中国学」を提唱した。それは、フッサール、サイード、デリダ等の議論を踏まえ、研究者も一主体として、同じ主体としての中国諸アクターとの共同主観性を前提に、研究を進めるという主張であった。だが加々美が向き合っているのは、その議論を大きく超えて、古典哲学や神学にまで関わる問題である。人間が数千年にわたって行ってきた客体化転写と形式知の獲得という、「学」がかかえる問題なのであり、それが社会科学においては集中的に顕在化した結果である。したがって、この問題を何らかの形で解決しようとすれば、「学」という枠を超えた方法を模索せねばならない可能性がある。

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  • [総説・レビュー論文]

  • 中国のローカルガバナンスに関する研究動向と課題 -海外の研究を中心に

    鄭 浩瀾(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

    本稿は、過去二十年間における中国のローカルガバナンス研究に関する海外研究の動向と課題を検討するものである。具体的には、胡錦濤政権から習近平政権に至るまでの地方政府幹部の政策執行に関する研究に焦点を当て、社会の変容およびガバナンスの現場という視点から地方ガバナンス研究が直面する課題を考察する。それとともに、社会構造の変化がローカルガバナンスに与える影響と、その対応策を検討する必要性を指摘する。

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  • [総説・レビュー論文]

  • 現代中国語における発話行為研究の次のフロンティア -可視化と方法論が拓く展望

    宮本 大輔(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

    本稿は、学術誌2誌の論文タイトルを分析、可視化することにより、2つの学会の研究動向を示し、5つの発話行為を方法論とともに整理した。可視化の結果、『社会言語科学』では近年、相互行為、会話分析を主題とした研究が集積し、『中国語学』では構造記述、方言研究が中核で、言語行動研究は限定的だった。レビューでは、DCT→ロールプレイ/口頭DCT → 自然談話、会話分析へ至る展開を概観した。今後は、混合法、マルチモーダル比較、および日中接触場面の自然談話コーパス整備を進めることで、現代中国語における発話行為研究の「次のフロンティア」を具体化できる。

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  • 特集投稿論文・報告

      [研究論文]

    • 中国における漸進的財政改革 -財政力集中型の財政体制改革の政策過程

      趙 汗青(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

       本稿は、中国における財政力集中型の財政改革の政策過程を、1994年の分税制改革と2002年の所得税改革の事例を通じて検討するものである。両改革は、中央政府が段階的な制度設計により地方政府の抵抗を抑制し、財政資源を再集中させたという共通性を持つ。特に、分税制の試行や所得税の配分比率調整など、地方の制度受容を促す柔軟な措置を講じつつ、改革の主導権を維持した点に特徴がある。本研究は、権威主義体制下における漸進的制度変化の一形態として、中国の財政改革を位置づける視座を提示する。 SFCJ-25-2-06.pdfをダウンロード

      [研究論文]

    • 現代中国の中央政府における「張り子の虎現象」 -制度設計・党の統制・中央地方関係の相互作用

      劉 一鶴(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

      本稿は、中国中央政府における「張り子の虎現象」、すなわち官僚機関の法定権力と実質的権威の乖離の要因を解明する。事例分析により、「三定」制度の「剛柔」両面性、党の優先順位に応じた「傘型構造」による選択的権威配分、中央地方関係による権威弱化の増幅という三要因を明らかにした。本稿の貢献は、三要因の相互作用により中央政府内部の水平的権力関係が政策実効性を制約することを示した点にある。この現象は党の統治論理と官僚制の合理性の構造的緊張の帰結であり、機構改革の反復もこの緊張の表出である。

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    • [研究論文]

    • 中央政府によるメディア統制の必然性 -文化的ヘゲモニー、社会運動、そして香港の事例

      段 秋妍(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

      2020年の香港国家安全法施行以降、メディア統制は異論の抑制と国家言説の形成に顕著な影響を及ぼしている。本研究は、アジェンダ設定理論、フレーミング理論、およびキングドンの政策ウィンドウ理論を適用し、Apple Daily等の事例を分析することにより、メディアが公共認識の形成および政策課題の顕在化を通じて、政策決定のタイミングや実行可能性にどのように影響するかを考察する。これにより、香港における情報統制と社会的同意形成の構造的関係を明示的に理解する枠組みを提供する。

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    • 自由論題招待

        [退職教員特別寄稿]

      • Cx-conの構造 -言語の基礎論についての思弁

        大堀 壽夫(東京大学名誉教授)

        言語学の研究は、通常は明確に定義されたケーススタディと、それが特定の理論モデルの同じく明確に定義された下位分野に対してもつ含意についての議論から成り立つ。これに対し、本論考においては言語学の基礎的な問題について思弁的な考察を行う。人間言語の記号論的な性質についての議論から始め、続いて言語的記号の設計上の特徴へと論を進める。単純な記号(=単語)だけでなく、複雑な記号(=統語的構文)も、コンストラクティコン(Cx-con)と呼ばれる構文のネットワークに属するものとして、包括的かつ体系的に扱われることを論じる。この概念的枠組みに基づいて、人間言語の成り立ちと発達についての推測を提示する。

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      • 自由論題投稿論文・報告

          [研究論文]

        • ネットワーク空間上のプラットフォーム事業者に流通情報の統御を求める憲法上の根拠

          海野 敦史(慶應義塾大学環境情報学部教授)

          ネットワーク空間上でSNS等を管理するプラットフォーム事業者が流通情報をコントロールする「私的権力」を担う中で、問題情報の排除を一定の範囲で義務づける立法は、憲法上の要請であると解される。その根拠として、憲法21条1項に基づく「知る権利」の客観法的側面やデジタル立憲主義なる概念が提示されてきたが、理論上問題がある。憲法21条2項後段の規定が「通信」の制度的利用環境の確保を公権力に要請していると解されることに照らし、その一環として、問題情報の排除に対する努力が求められると捉えることが合理的である。

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        • [研究論文]

        • イメージスキーマの概念化に関する日英語話者間における差異の項目反応理論による分析 -英語前置詞inに焦点を当てて

          藤原 隆史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程 / 松本大学教育学部准教授)
          沼田 泰英(北海道大学大学院理学研究院数学部門教授)

          本研究では、藤原(2022)が実施した「言語使用者による前置詞 in の目的語句の『容器性』判断」に関する心理実験データの解析のために、項目反応理論に基づき個人の潜在的特性を考慮に入れた解析手法を提案する。サンプルサイズの制約から、推定値に誤差が含まれる可能性があるものの、本手法の適用により、英語母語話者においては、前置詞 in に対する一定の共通概念の存在を示唆する結果が得られた。一方、日本語母語話者では、共通概念に基づいて回答されたと考えられる用例と、そうではない用例の混在が示唆された。

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        • [実践報告]

        • CPサッカーの持続可能な普及に向けた実践的検討 -半構造化インタビューとテキストマイニングによる分析

          西岡 春菜(東京大学大学院学際情報学府)

          本研究では、障害者スポーツの社会的普及における課題とともに、特に認知度が低いCPサッカー(脳性麻痺者サッカー:Cerebral Palsy Football)の普及戦略について明らかにする。研究方法としては、10代~40代の一般市民50名を対象に実施された半構造化インタビューでデータを収集し、KH Coderを用いて計量テキスト分析を行った。その結果、「体験型イベントによる障害者理解の促進」「教育・メディアによる認知の拡大」「多様な関与と競技文化の創出」「一般市民との接点と障害者理解の深化」「プロサッカーとの連携による信頼性の強化」および「SNSによる共感的理解を目的とした情報発信」が、CPサッカーの普及に関する主要カテゴリーとして抽出された。本研究の知見は、CPサッカーの普及が単なる競技人口の増加にとどまらず、障害者理解や共生社会の実現に貢献し得ることを示している。

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        • [実践報告]

        • ひきこもりに対する精神ケアの場における「半開き」の構造 -日仏のひきこもり経験者への生活史調査とラボルド病院でのフィールドワーク

          藤谷 悠(神奈川大学国際日本学部非常勤講師)

          本稿は、筆者によるひきこもり経験者への生活史調査、およびフランスの精神ケア施設のラボルド病院におけるフィールドワークの成果を報告するものである。これらの実践的調査を通じて、現状のひきこもりに対する精神ケアのあり方を当事者の視点から再考し、ひきこもりと精神ケアの関係を捉え直すことを目的としている。あわせて、ラボルド病院が実践する制度論的精神療法の思想と同病院の構造的な特徴を手がかりにして、ひきこもりの当事者や経験者が「半開き」的な環境において他者と共に生活していく可能性に関する試論を展開する。

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