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- Vol.22 No.2
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ヒト赤血球代謝数理モデリングの歴史的発展
ザッカリー B ハイマン(カリフォルニア大学サンディエゴ校生物工学部大学院リサーチアシスタント) ジェームス T ユルコビッチ(カリフォルニア大学サンディエゴ校生物工学部訪問研究員 / Phenome Health チーフ・イノベーション・オフィサー) ベルナード O パルソン(カリフォルニア大学サンディエゴ校生物工学部 Y.C. Fung 寄付講座教授) ヒト赤血球をモデル系とした代謝モデリングと全細胞シミュレーションはこの半世紀の間に大きく発展した。酵素をパスウェイとして連結する初期の研究に基づき、代謝パスウェイのモデリングフレームワークが開発されるようになった。複数の生化学的・遺伝学的プロセスをモデリングできるシミュレーションソフトウェアは、細胞スケールのモデリングへの移行を促進し、モデル駆動設計のためのオミックスデータと計算機研究を結びつける補完的なワークフローを可能にした。本稿では、ヒト赤血球の数理モデリングの歴史におけるマイルストーンを紹介する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0008 -
メタボロミクスの技術革新に対する慶應義塾大学先端生命科学研究所の20 年に亘る貢献
フィリップ ブリッツ- マッキビン(マックマスター大学(カナダ)化学・ケミカルバイオロジー学科教授) 慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB) は2001 年4 月に設立され、統合システム生物学研究を推進するための国際的なメタボロミクスセンターとしての役割を果たしている。世界中の他のメタボロミクスセンターとは異なり、IAB は極性・イオン性代謝物の包括的な解析プラットフォームとしてのキャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)技術の開発と、バイオマーカー探索や生化学的解釈のためのバイオインフォマティックツールの開発に重点を置いて戦略的に行ってきた。IAB は2 回の国際メタボロミクス会議の主催、若手科学者のトレーニングやスピンオフ企業の設立に加えて、臨床医学、機能ゲノミクス、マルチオミクス研究、がん診断検査、農業および食品化学、疫学や公衆衛生学等の、インパクトの大きなメタボロミクス研究に貢献してきた。IAB はまた、鶴岡市の地域住民を対象とした前向き研究の実施や庄内地域で生産された食品の品質評価に代表されるように、地域社会、臨床医や産業界とのメタボローム研究を介したパートナーシップを育んできた。さらに、IAB は日本および世界の数々のCE-MS を用いたメタボローム共同研究の先頭に立ってきた。この短いレビューでは、冨田勝博士のリーダーシップの下でもたらされた20年以上に亘るCE-MS メタボロミクス技術の研究イノベーションの主要な成果について紹介する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0024 -
20 Years of the Minimal Cell’s Rise from Theory to Practice
Yo Suzuki(Assistant Professor, Synthetic Biology and Bioenergy Group, J. Craig Venter Institute) J. Craig Venter(Founder, Chairman, and Chief Executive Officer, J. Craig Venter Institute) サイエンスでは単純な実験系を使うことで、飛躍的に研究が進むことが多い。細胞は生命の単位と考えられるが、自然界に存在する最も単純な細胞でさえ、人の理解を超える未解明の機能を持った複雑な系を構築している。そこで生命を解析するためのモデルとして、実験室での最小細胞作成が検討され、その目標が達成された。この過程で慶應義塾大学は先駆的な役割を果たした。この研究は合成ゲノミクスという新分野を生み出し、最小細胞を通じて生命を理解し、産業と医学に応用するための世界的な動きにつながった。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0042 -
熱を作る脂肪の最新動向 -肥満率30% のブロンクスからのメッセージ
篠田 幸作(アルバートアインシュタイン医科大学糖尿病研究センター助教) 肥満は、太っているという外見の問題に留まらず、耐糖能異常、脂質異常症、高血圧、冠動脈疾患、脂肪肝など、生命を脅かすさまざまな健康障害を引き起こす。全世界的に肥満は増加の一途を辿っており、食習慣、生活習慣の改善のみでは対応できない「パンデミック」の様相を呈している。そこで注目されているのが、高いエネルギー消費能により抗肥満効果を持つ特殊な脂肪組織、褐色脂肪組織(Brown Adipose Tissue: BAT)である。寒冷に対する抵抗メカニズムとして進化したBAT だが、近年の活発な臨床研究で、肥満1)、耐糖能異常2)、脂質異常3)、冠動脈疾患4)を防ぐことが証明されている。本稿は、2021年から2022 年に発表された最新のBAT 研究の論文を、オムニバス形式で紹介し、BAT が増殖・活性化する過程・メカニズムを読み解くことを目的とする。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0054 -
数理モデルを基盤とした微生物代謝システムの設計・評価の方法
戸谷 吉博(大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻准教授) 持続可能な社会の実現に向けて、微生物の代謝システムを利用した有用物質生産が注目されている。原料から目的物質への変換効率を高めるには、代謝システムを合理的に設計し、それに基づいて現実の細胞を育種する代謝工学の取り組みが必須であり、なかでも数理モデルを利用した研究は代謝工学の中心的な役割を担っている。本総説では、数理モデルに基づいて代謝システムを設計・評価するための手法について、最近の技術進歩や応用事例をまとめ、今後の微生物を利用したモノづくりにおける代謝工学研究の展望を述べた。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0068 -
多階層のオミクス技術が解き明かす生命現象
岩崎 未央(京都大学iPS 細胞研究所講師) 生体内には多階層のオミクス情報が存在している。例えば私たちヒトでは、46 本の染色体からなるゲノム情報、ゲノムに後天的な修飾を受けたエピゲノム情報、そこから転写された数万種類の転写物(トランスクリプトーム)の情報、翻訳された数十万種類のタンパク質(プロテオーム)の情報、数千種類存在する代謝物(メタボローム)の情報である。これまでの測定・解析手法では、単一階層の情報を取得し解析することが精一杯であったが、近年の技術発展により、多階層のオミクス解析を統合して生命現象の理解に挑むことができるようになった。本総説では、各オミクス解析技術の中でも一番難しかったプロテオーム解析技術に焦点を当て、技術的な発展の歴史を背景に、多階層のオミクス技術を用いた研究例について概説したい。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0082 -
非コード領域のゲノム科学
岩崎 由香(慶應義塾大学医学部分子生物学教室准教授) 近年のトランスクリプトーム研究のもたらした最も重要な成果の一つに、多様な生物種における膨大な数の非コードRNA の存在が明らかになったことが挙げられる。そうした非コードRNA のうち20-30 塩基程度の小分子RNA は、細胞質での標的RNA の分解や核内でのエピジェネティックな制御まで、非常に多岐にわたり、いずれも正常な発生や生体機能に必要不可欠なものである。本稿では、小分子非コードRNA による遺伝子発現制御に焦点をあてながら、ゲノムの大部分を占める非コード領域の機能について議論する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0094 -
タンパク質素材産業化への挑戦
中村 浩之(Spiber 株式会社チームマネージャー / 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程) 菅原 潤一(Spiber 株式会社取締役兼執行役) クモの糸、シルク、羊毛、髪の毛や爪など、⽣物は様々な⽬的のためにタンパク質を素材として利⽤している。これらの素材を構成するタンパク質は、酵素や抗体などのタンパク質と区別され、構造タンパク質と呼ばれる。構造タンパク質は、素材としての魅力的な機能、石油化学製品を代替する可能性から、循環経済を実現する素材として期待されている。Spiber 株式会社は、2007 年の創業から一貫してタンパク質素材の産業化に挑んできた。本報告では、構造タンパク質および、その産業化に挑戦するSpiber について紹介する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0108 -
地域と企業の未来をつくる -新たな連携・交流・人材育成拠点としての慶應義塾大学先端生命科学研究所
坂井 明子(慶應義塾大学先端生命科学研究所地域連携プロジェクトコーディネーター) 高木 慶太(損害保険ジャパン株式会社ビジネスデザイン戦略部(兼)経営企画部サステナビリティ推進グループ「ビジネスラボ鶴岡」課長代理) 2019 年にスタートしたIAB 地域連携プロジェクトは、研究所を生んだ地域と慶應義塾の連携の原点に立ち返りながら、発展・増大してきた各機関が相乗効果をもって関わり合う基盤をつくり、地域の機関・資源とも効果的に連携して新たな展開と活性化の好循環を生むことを目指している。2018 年からはIAB と包括連携協定を結んだ大企業が鶴岡市に社員を派遣し、社業を離れて自由な活動を行う「企業イノベーター育成プロジェクト」が始まっている。本稿ではこの2 つのプロジェクトの取り組みを紹介し、IAB が新たな連携・交流・人材育成の拠点となっていることを述べる。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0128 -
一般社団法人鶴岡サイエンスパークの始動
湯澤 陽子(慶應義塾大学先端生命科学研究所産官学連携コーディネーター(URA)) 「鶴岡サイエンスパーク」とはこれまで、鶴岡市の北部にある21.5ha の開発エリア一帯すなわち場所を意味する呼称であったが、2021 年4 月あらたに「一般社団法人鶴岡サイエンスパーク」が設立され、法人の名称ともなっている。当法人が発足した経緯や期待される役割、現在までの活動状況について報告する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0152 -
慶應義塾大学先端生命科学研究所における高校生教育プログラム
富樫 貴(慶應義塾大学先端生命科学研究所高校生教育事業専任) 塩澤 明子(慶應義塾大学先端生命科学研究所渉外担当) 先端生命科学研究所では地域活性化を目的として高校生に対する科学教育プログラムを実践している。各教育プログラムの概要、およびその歴史と今について述べる。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0164 -
最強生物クマムシの乾眠メカニズムの解析
田中 冴(自然科学研究機構 生命創成探究センター特任助教) 荒川 和晴(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 / 自然科学研究機構 生命創成探究センター客員教授) クマムシは乾眠という含水量数%以下の無代謝状態になることによって、周辺環境の乾燥に耐えることができる。乾眠状態のクマムシは高圧や高線量放射線などの物理的ストレスにも耐性を示す。このような乾眠の分子機構を明らかにするために、これまで、複数種のクマムシのゲノム解析やクマムシ特異的なタンパク質の解析が進められてきた。本総説では、クマムシや他の乾眠生物を取り巻く最新の研究状況や今後の展望について紹介していく。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0178 -
メタボローム解析のこれまでとこれから
平山 明由(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授) メタボローム解析が本格的に実施されるようになってから約20 年の月日が流れた。当初は、どの分析法が適しているのかという技術的な議論が主であったが、次第に様々な応用研究へ利用されるようになり、疾患機序の解明やバイオマーカーの発見など着実に成果を生みつつある。本稿では、これまで先端生命科学研究所で開発されてきたメタボローム解析技術について概説するとともに、今後どのような技術が求められるのかについて展望を述べたいと思う。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0192 -
メタボローム解析を用いたデータ駆動型サイエンス
杉本 昌弘(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授) 生体内では様々な分子が相互作用をして多様な機能を実現している。生体内の分子を測定するオミックス解析の発展により、分子の挙動を一斉に観測し包括的に把握することが可能となっている。本稿では、多数の代謝物を同時に測定するメタボローム解析の技術的な側面について解説する。また、代謝物のデータの解釈として、統計解析だけでなく、化学反応を定量的な数式で表現しシミュレーションすることによって代謝の複雑な仕組みを理解しようとする取り組みも紹介する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0202 -
腸内細菌叢研究におけるメタボローム解析技術の貢献
福田 真嗣(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授 / 株式会社メタジェン代表取締役社長CEO) ヒトの腸管内には多種多様な腸内細菌が生息しており、それら腸内細菌叢は宿主細胞と相互作用することで複雑な腸内生態系、すなわち腸内エコシステムを形成している。腸内エコシステムの恒常性を維持することがヒトの健康維持に寄与することが明らかになりつつあり、腸内エコシステムのバランスが乱れると、炎症性腸疾患や大腸がんといった腸管関連疾患のみならず、アレルギーや代謝疾患といった全身性疾患につながることも報告されている。腸内細菌叢と宿主細胞とのやりとりを理解するためのアプローチとして、腸内細菌叢の遺伝子を網羅的に解析するメタゲノム解析が主流であるが、これに加えて、腸内細菌叢の機能を反映する代謝物質を網羅的に解析するメタボローム解析の本研究分野における役割は大きい。さらに両解析により得られたデータを情報・数理科学的に統合解析するメタボロゲノミクスアプローチにより、腸内エコシステムが宿主の恒常性維持や疾患発症にどのように影響しているのかについて、その全容が解明されつつある。本稿では、腸内細菌叢研究分野におけるメタボローム解析技術の貢献と、メタボロゲノミクスによる腸内細菌叢の全容理解に向けた近年の取り組みについて紹介する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0216 -
国際学術論文の医学分野における日本独自の責任著者順序
村井 純子(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授) 国際学術論文において、連絡窓口となるcorresponding author(責任著者)は、筆頭著者と並んで論文への貢献度が高いと認識される。本論文では、責任著者が著者順序のどこに位置するかを、アメリカ癌学会機関紙Cancer Research誌と日本癌学会機関紙Cancer Science 誌に2021 年に掲載された論文計793報を調査して、日本発の論文と非日本発の論文に分けて比較した。日本発の論文は第二筆頭著者が責任著者となる割合が非日本発の論文の20 倍多く、最後尾著者が責任著者にならない割合が2 倍多かった。これらのことから、日本独自の責任著者順序が明らかとなった。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0234 -
地域住民の健康とBio-Psycho-Social Model -からだ館プロジェクトの15 年、鶴岡メタボロームコホート研究の10 年からの示唆
秋山 美紀(慶應義塾大学環境情報学部教授) 武林 亨(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授) 開始から15 年が経過した「からだ館」と、開始から10 年の「鶴岡みらい健康調査」(鶴岡メタボロームコホート研究)を振り返り、住民の継続的な健康増進や課題解決に資する複合的なアプローチの有用性を議論する。両プロジェクトは、どちらも地域コミュニティで住民とともに行ってきたという特徴を持ち、健康な地域づくりのために相互補完的な関係にある。本稿では、Bio-Psycho-Social(生物心理社会)モデルを援用しながら、鶴岡地域に根差した先端生命科学研究所が両プロジェクトを行う意義を述べる。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0244 -
大腸菌ゲノム改変の過去・現在・未来
森 浩禎(奈良先端科学技術大学院大学名誉教授) 大腸菌(Escherichia coli) K-12 株は、最もよく研究されている細菌種の1つである。しかし、この種は他のモデル微生物に比べ、相同組換え(HR)による改変が非常に困難であった。大腸菌のHR の研究は、HR の分子機構の理解を深め、ゲノム研究の技術的向上と急速な進展をもたらし、全ゲノム変異誘発と大規模なゲノム改変を可能にしてきた。λRed(exo、bet、gam)やCRISPR-Cas を用いた開発により、大腸菌は酵母や枯草菌といった他のモデル微生物と同様にゲノム改変を行うことができるようになった。本総説では、大腸菌の組換え研究の歴史と、HR によるゲノム改変技術の向上について述べる。また、これらの技術を用いた大腸菌の大規模なゲノム改変の成果として、DNA 合成やアセンブリーなどについて解説する。さらに、最近のゲノム改変の進展を概観し、今後の方向性を考察するとともに、新規細胞の設計に伴う問題点についても述べる。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0262 -
接合伝達法の活用によるゲノム合成から細胞導入までの一気通貫システム
板谷 光泰(信州大学特任教授 / 前慶應義塾大学環境情報学部教授) 巨大なDNA が合成できる時代になった。しかしながら、多数の遺伝子を含むDNA はサイズが大きすぎて、最終目的の細胞に導入する手法は限定的である。枯草菌(こそうきん)は巨大DNA 合成のプラットフォームであり、我々は合成した巨大DNA を別の細胞に導入する簡便で確実な手法に取り組んだ。接合伝達を利用する巨大DNA 導入法は、慶應義塾大学先端生命科学研究所で開発され、導入対象の細胞は、枯草菌、納豆菌(なっとうきん)、シアノバクテリアにまで拡大された。特に、納豆菌は日本人の感性をくすぐる納豆の生産菌であり、物質生産にも直結する。納豆菌へのDNA 導入では、制限修飾系という古くて新しい課題に直面して、接合伝達システムの応用と限界をあらためて認識した。導入対象細胞のバリエーションに対応すべく、今後の実践的な取り組みを加速するであろう。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0290 -
鶴岡だだちゃ豆通信 -慶應義塾大学先端生命科学研究所機能性RNA 研究グループの目指したRNA 研究
金井 昭夫(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授) 2001 年慶應義塾大学 先端生命科学研究所(IAB)でRNA 研究を開始した。我々は生命情報科学と実験科学を融合した戦略をとり、様々な機能性ノンコーディングRNA の発見に貢献することができた。また、RNA 結合タンパク質やRNA 関連酵素の同定や性状解析をシステマティックに遂行した。さらに、これらRNA 関連分子の進化を、生物の3 大ドメインである、バクテリア(真正細菌)、アーキア(古細菌)、真核生物、これにウイルスを加えて、俯瞰することで、その体系化を試み、考察した。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0304 -
メタボローム(全代謝産物)測定法の開発とがん検査への応用
曽我 朋義(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授) ゲノム情報の最終産物であり、生体内に数千種類以上存在する代謝産物(メタボローム)の網羅的な解析は、生命科学の基礎研究のみならず、医薬、食糧、環境、エネルギーなど人類が直面している問題に有効な解決策をもたらすのではないかと期待されている。我々は、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)によるメタボローム解析技術を開発し、代謝産物の一斉分析を実現した。近年この方法論をさらに高感度化、高速化させ、様々な生命科学研究に応用している。ここでは、本法の技術開発およびがん検査への応用について概説したい。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0320 -
冨田先生の思いで
宮田 満(株式会社宮田総研代表 / 株式会社ヘルスケア・イノベーション代表取締役)
【第1章 先端生命科学】
【第2 章 SFC から羽ばたくバイオサイエンス】
【第3 章 鶴岡からの地方創生】
【第4 章 IAB から羽ばたくバイオサイエンス】
【第5 章 IAB の20 年】
【コラム】
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DNA メタバーコーディング解析が可能にしたトラフズクAsio otus のペリットにおける小型餌動物の検出
清水 拓海(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程) 夏川 遼生(日本学術振興会海外特別研究員) 湯浅 拓輝(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程) 黒田 裕樹(慶應義塾大学環境情報学部教授) 一ノ瀬 友博(慶應義塾大学環境情報学部教授) 猛禽類などの頂点捕食者の餌となる動物を種レベルで同定することは捕食者の生態を明らかにし、保全するために重要な情報となる。しかし、餌動物を特定するためには目視を主流とした高度な分類学的知識などが必要とされる。そこで、本研究では分子生物学的手法によって簡易的に餌動物を特定することにした。3種類のユニバーサルプライマーを用いて神奈川県中部に生息するトラフズクAsio otus のペリットをDNA メタバーコーディング手法によって解析した。その結果、トラフズクは冬季に小鳥や齧歯類、コウモリなど様々な小型の恒温動物を捕食していることが明らかとなった。捕食者と被食者の関係を研究するにあたってDNA メタバーコーディングが高効率で信頼性の高い手法であることが再確認されたと言える。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0336 -
SNS が書き換えた想像と信頼 -半透明なエクリチュールが〈多〉−接続詞化させた「曖昧さ」について
小川 楽生(慶應義塾大学総合政策学部4 年) 本論文では、SNS を単なるコミュニケーションツールではなく、〈多〉−接続詞化した領野として捉えることの可能性を論じる。エーコの『開かれた作品』、バルトの「〈中性〉のエクリチュール」概念に巧みな「曖昧さ」という共通項を見出し、そこから社会参加型アートやドゥルーズ=ガタリの示す「あれであれ、これであれ」の概念を検討しつつ、SNS 上の言表に付せられている性質を「リゾーム的」であると結論づける。そのリゾーム性は、行為が〈多〉−接続詞化することによって誘発され、かつその誘発がSNS の持つ、曖昧な視線に親しい特性によるものと指摘する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0348 -
ウェルビーイングな学校にむけて -生成の教育学とSEL の公立高校での実践
石黒 和己(特定非営利活動法人青春基地・代表理事) 一人ひとりがよりよく生きることを学ぶ、ウェルビーイングな学校とはどのような場なのだろうか。 本稿は、Social Emotional Learning と生成の教育学を交えることで、個がいかされた学びの在り方を探る公立高校での実践報告だ。その学びの中からは、生徒や作り手たちのどのような表現や動きが生まれたのか。<インサイド・アウト>をキーワードに、表れてきたナラティブから、その学びの条件について提示する。
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DOI: 10.14991/003.00220002-0378