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SFCが拓く知の方法論

KEIO SFC JOURNAL Vol.14 No.1 SFCが拓く知の方法論

2014.09 発行

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特集招待論文
  • 地域介入とエビデンス - 複雑介入と混合研究法をめぐって

    秋山 美紀 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    本稿は、地域コミュニティ等の集団において、 保健医療、福祉、教育等の効果あるプログラムを実施し評価をするための方法論を検討する。研究としてつくられるエビデンスと実社会で使われるエビデンスのギャップを埋める手法として、保健医療分野で近年注目されている複雑介入(Complex Interventions)や混合研究法(Mixed Methods)を紹介しながら、我が国で行われた世界的にも最大規模の緩和ケアの地域介入研究の事例を考察する。実際の企画・立案・評価のプロセスと成果の紹介を通じて、公衆衛生やヘルスサービス、教育、まちづくり等の分野への応用可能性を示唆する。

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  • グラウンデッド・セオリー・アプローチ概論

    戈木クレイグヒル 滋子 (慶應義塾大学看護医療学部/健康マネジメント研究科教授)

    本稿では、日本における質的研究の現状を説明したあと、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTA)の特徴と研究の流れを概説した。質的研究では研究者が道具となってデータ収集とデータ分析をおこなうが、GTA はデータ収集と分析で生じる研究者のバイアスを最小限にとどめるとともに、データ分析の局面では研究者の解釈を他者と共有し、アイデアを産出することを容易にする仕組みを有した研究法だと思われる。

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  • 時間的な印象変化の分析によるマルチメディアデータ検索・可視化システム

    倉林 修一 (慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    本論文では、Web 上に拡大する動画像、および、音楽データを対象とし、それらを多様なコンテクストを持つ時系列メディアデータとして捉え、時系列的な分析による印象コンテクストの自動抽出、検索、可視化を行うマルチメディアデータベースシステムについて述べる。本システムは、これまで感性的な視点からの情報獲得が困難であった時系列メディアデータを対象として、個人の感性的嗜好に合致する対象の自動配信環境を実現する、新たなコンテンツ流通基盤として位置づけることができる。

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  • 学際的領域としての実践的デザインリサーチ - デザインの、デザインによる、デザインを通した研究とは

    水野 大二郎 (慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    近年、人工物を創出するデザインの「研究」としての「実践的デザインリサーチ」 (Design Research Through Practice) が注目をあびている。その背景には、複雑化する社会問題の理解、共有、解決にあたり、リサーチの具現化が多様な市民間での対話を可能とするためであると考えられる。しかしデザインリサーチとはどのような歴史的系譜の上に成立する研究であり、その実践とはどのような形をとりえるのか。本論はデザインリサーチの歴史的系譜を概観した上で、メタデザインとしての「デザイン活動を支援するための環境のデザイン」における構成的デザインリサーチの可能性を展望する。

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  • 創造的な対話のメディアとしてのパターン・ランゲージ - ラーニング・パターンを事例として

    井庭 崇 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)

    本論文では、複雑で流動的な時代に物事を認識し、考え、コミュニケーションを図るためのメディアとして「パターン・ランゲージ」を取り上げる。パターン・ランゲージは、過去の経験・事例から本質的に重要な部分を抽出し、それを活用するための知の方法論である。古くは建築分野で考案され、ソフトウェア分野で花開き、現在はより広い「デザイン」領域に応用されている方法である。本論文では「学び」の秘訣をまとめた「ラーニング・パターン」を事例とし、それが創造的な対話のメディアとして機能することを明らかにする。また、そのようなパターン・ランゲージの作成プロセスについても紹介する。

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  • オーラル・ヒストリーメソッドの再検討 - 発話シークエンスによる対話分析

    清水 唯一朗 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)
    諏訪 正樹 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    近年、質的研究の分野では、オーラル・ヒストリーをはじめとして、様々な形態のインタビューが広く用いられている。しかし、その方法論は豊富な経験を持つ研究者たちが経験に基づいて構築したものであり、初学者をはじめ多くの実践者にあまねく有効かどうかという疑問があった。なにより、従来の方法論は聴き手の側に寄りすぎる嫌いがあった。 よって、本研究ではあらためてインタビューを聴き手と話し手のコミュニケーションとして、両者のコラボレーションとして捉えなおし、聴き手の発する質問と話し手の応答の関係をシークエンスに整理して分析し、従来の方法論を再検討しつつ質問を軸とする発話の効果を明らかにする。 ケーススタディとしたインタビュー分析からは、第一に従来の方法論が指摘する聴き手の主観が話し手の語りに与える影響を認める一方で、話し手が自らの主観を語るうえでは大きな効果が期待できること、第二に聴き手が仮説を提示する際にはその質がその後の語りに大きく影響すること、第三に両者の関係性は回を重ねるごとに変化し、第三回目で深い語りが広がる可能性があることが見出された。

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  • 「方法論としてのイスラーム」のための序説

    奥田 敦 (慶應義塾大学総合政策学部教授/慶應義塾大学SFC 研究所イスラーム研究・ラボ代表)

    人間や社会を論じる際に方法論としてイスラームを用いるとはどういうことなのか。本稿ではまず、デカルトの『方法序説』を取り上げ、理性による思考方法の前提に「完全者」としての神の存在があることを明らかにする。つぎに、マックス・ヴェーバーとデュルケームとイブン・ハルドゥーンのそれぞれの代表的作品の比較から、理性的思考にとって神からの教えが不可欠であることを示す。さらに、イスラームの信仰にもとづくこの方法論が、いかに人間や社会に関する真理を探究する際の「鑑」になりうるのかを、イスラーム神学の知見を交えながら考察する。

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特集研究論文
  • SFCにおけるパーソナルゲノム時代のリテラシー教育

    荒川 和晴 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
    冨田 勝 (慶應義塾大学先端生命科学研究所所長/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/慶應義塾大学環境情報学部教授)

    DNA 配列決定における技術革新などにより、近い将来に個別化医療などのパーソナルゲノム時代が到来することは確実であろう。一方で、残念ながらパーソナルゲノム時代を受け入れるために必要な法律やガイドラインなどの社会システムや、一般市民のリテラシーに関しては、技術に対して大きく遅れをとっているのが現状である。そこで、本論文ではこのような問題に対応できる人材育成のために我々がSFC にて取り組んでいるパーソナルゲノム時代のリテラシー教育における先進的試みについて報告する。

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  • 「AO入試」の再評価 - 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を事例に

    中室 牧子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)
    藤原 夏希 (慶應義塾大学総合政策学部4年)
    井口 俊太朗 (慶應義塾大学総合政策学部4年)

    近年、入試形態の多様化が進むにつれて、AO入試による入学者が入学後にどのようなパフォーマンスを発揮しているのかということが注目を集めている。本研究では、SFC 在学者に対する質問紙調査をもとに、AO入試入学者と一般入試入学者とを比べて、どのような差が生じているのか?特に、リーダーシップの発揮や、満足度、目的意識、SFC への帰属意識、精神面の健康状態?を定量的に明らかにすることを目的とする。AO入試を選択する受験者が、そもそも他の入試区分を選択する受験者と根本的に異なっている可能性があり、入試区分の選択がランダムでないことによって生じるセレクション・バイアスをコントロールするため、傾向スコアマッチングという手法を用い、入試区分と上記のような教育成果との因果関係を明らかにすることを試みる。実証分析の結果、AO入試で選抜された入学者は、リーダーシップを発揮し、何かしらの課題や目標とともに、SFC に帰属意識を持ちつつ大学生活を送っていると判断することができる。特に、AO 入試の目的の一つが「問題意識の明確な学生を確保するため」だとするならば、SFC のAO入試という選抜制度はその趣旨にかなった役割を果たすことが出来ていると評価できよう。

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自由論題研究論文
  • 国際開発の現場での学習を支援するツールの制作

    槌屋 洋亮 (駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部助手*) *投稿時の所属は、慶應義塾大学SFC 研究所上席所員(訪問)

    本稿では、国際開発の現場での学習を支援するツールの要件について検討し、第1 段階として制作した同ツールのノートPC 版について述べる。紹介するのは、国際開発の調査やプロジェクトの現場にて収集する写真・映像などの記録を時間的・位置的な情報をもとに一体的に整理・表示する機能と、クラウド環境を介してそれらの記録を共有する機能を有するアプリケーションである。検証実験から、本ツールの利用が現場で学ぶ際の行動や成果報告の質などへ、いくつか肯定的な効果をもたらすことを確認した。

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  • 特集研究ノート
    • 1980年代日本における総合雑誌の中国認識 - 『世界』『中央公論』『文藝春秋』の中国関連記事を中心に

      鄭 琳 (北京外国語大学日本語学部大学院後期博士課程*) *投稿時の所属は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科協定研究生

      本稿の目的は、1980 年代に発行された日本社会に対して影響力がある総合雑誌(『世界』、『中央公論』、『文藝春秋』)に掲載された中国について評論した記事に着目し、日本の言論界が中国についてどの様に議論したのか、当時の中国論はいかなる人々によってリードされていたのかを整理し、この時期の日本社会の中国認識の特徴を描き出そうとするものである。調査の結果、雑誌毎に中国に対する関心度、記事の傾向、論調などの様々な面において明確な違いが存在していること、この三誌をリベラル、中道的、保守的の順にならべると、一般に言われているとおり『世界』、『中央公論』、『文藝春秋』となることがわかった。

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    自由論題学会動向
    • 最近の経済学の動向について:特徴、問題点、対応方向

      岡部 光明 (慶應義塾大学名誉教授)

      経済学は、近年その対象領域や分析手法において多様な展開を見せている。本稿では、最近のアメリカ経済学会ならびに日本経済学会で報告された論文のテーマに着目することによってその動向を明らかにするとともに、幾つかの問題点を指摘、そして今後の対応方向についても若干の示唆を与えた。

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    自由論題書評
    • 『コミュニティヘルスのある社会へ -「つながり」が生み出す「いのち」の輪』 -秋山 美紀 著、岩波書店、2013 年8月刊、232 頁

      評 岡部 光明 (慶應義塾大学名誉教授)
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