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コンピュータシステムの新潮流

KEIO SFC JOURNAL Vol.13 No.2 コンピュータシステムの新潮流

2014.03 発行

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特集招待論文
  • 量子計算-新情報技術の必要性と可能性

    バンミーター, ロドニー (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    鈴木 茂哉 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)
    永山 翔太 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    半導体技術は、半世紀の間、コンピュータの性能向上に貢献することで、重要な経済の牽引役となってきた。しかし、今、その前進を阻む根本的な問題に直面している。より高い性能を持つコンピュータへの一つのアプローチは、量子計算の活用である。慶應義塾湘南藤沢キャンパスのAQUA 研究グループでは、実用的な量子コンピュータの実現に向けて、様々な研究を進めている。本論文では、量子計算の基本的な概念とアルゴリズム、量子コンピュータ実現のために解決しなければならない問題について紹介する。

  • 感性や意味を計量するデータベースシステム-人間と情報システムの記憶系について

    清木 康 (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    データベース、知識ベース研究の主要な対象は、グローバルに繋がれた多様なマルチメディア情報源、知識源を対象とし、それらの分析を伴った検索、統合による新たな情報、知識の獲得や生成を行う記憶系の実現である。本稿では、データ間の意味的、感性的な等価性、類似性、関連性を“状況や文脈”に応じて動的に計算する計量モデルとして提案した“意味の数学モデル(MMM)”の概要を示し、そのモデルを基礎として実現した応用システムを示す。 “意味の数学モデル”は、文脈依存の意味的連想記憶モデルであり、その発想の原点は、辞書のような言葉の意味を記述した“人類の知識や英知が集約された集合”を用いた“意味空間の形成”という概念にある。我々は、基本英単語約2000語による約2000次元の意味空間(意味を計算する空間)を構築することにより、実にさまざまな文脈(原理的には22000の文脈)を内包し、また、記憶想起する記憶系を構築した。その意味空間上に、言葉や画像、音楽といったオブジェクトを配置し、その空間上での距離計算による画像、音楽などのメディアデータの記憶想起系を実現した。このモデルの環境情報分析への応用として、地球規模での社会、自然環境を対象としたグローバル環境システムである“5D WORLD MAPシステム”の構成を示す。5D World Map は、3次元の地理的空間軸、1次元の時間軸、および、多次元の意味空間軸上に配置される自然環境、社会環境事象を5次元空間(3次元地理的空間軸、1次元時間軸、1次元に縮退した意味空間軸)の世界地図上に写像し、自然環境、社会環境の事象の状況、および変化を検索、共有、分析するシステムである。

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  • Google のサービスを支える大規模基盤システム

    安田 絹子 (グーグル株式会社ソフトウェア・エンジニア)

    Google では、年々大規模化するWeb データに対してより質の良い検索サービスを提供するため、初期の頃からMapReduce やBigTable などのさまざまな大規模基盤システムが開発されてきた。これらのシステムは現在でも改良されながら使われ続けているが、近年のより対話的なサービスへの移行の流れの中で、初期のシステムとは大きく設計思想の異なる新しい基盤システムも登場しつつある。本稿では、2003 年から2012 年までの間にGoogle から発表された6 つの基盤システムを取りあげ、Google のサービスを支える基盤技術の概要とその変遷について解説する。

  • FPGAを使ったPCアクセラレーション

    松谷 健史 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    空閑 洋平 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    本論文では、消費電力や遅延の削減を目的としたFPGAによるPCアクセラレータ設計について述べる。クラウドサービスの大規模化にしたがって、データセンタでは、消費電力の削減やマイクロ秒単位での低遅延処理のニーズが高まってきている。PCアクセラレータを導入することによって、このような消費電力の削減や低遅延処理が可能だが、導入には様々な課題がある。FPGAを用いたPCアクセラレータを題材に、そのアーキテクチャと性能、適応領域を議論する。

  • 生命を計算して理解する

    内藤 泰宏 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    現代の生命科学は生命を分子機械と捉え、そのリバースエンジニアリングよって生命現象の動作原理の解明に取り組んでいる。本稿ではまず、生命科学者が生命を分子機械と捉えるに至った過程を辿る。その上で、一斉大量測定や1分子レベルの顕微鏡観察といった測定技術の革新を経て、コンピュータ上で生命情報を計算することによって、生命についていかなる理解がもたらされつつあるかを検討する。

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自由論題研究論文
  • 1950年代の中国対英・対日外交における対野党戦略

    廉 舒 (慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師)

    本稿は1950年代における中国の対英・対日野党戦略を取り上げるものである。西側諸国と正式な外交関係を持つことが難しい冷戦構造の中で、中国はイギリス労働党や日本社会党など、中国との関係改善を望む野党に対して働きかけを行った。両者に求める役割は異なっていたが、対米戦略の一環として展開したという点で共通項が存在する。ここから、対外戦略目標を実現するにあたっての、中国外交の実用主義の一面がうかがえる。

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  • 新卒看護師の自己開示に関する研究

    芙蓉 史江 (慶應義塾大学看護医療学部助教*)*所属は投稿時。

    本研究は、病棟において新卒看護師が被自己開示者を選択し、自己開示に至るまでの過程とその効果を明らかにすることを目的とした質的記述的研究である。選択された被自己開示者は、新卒看護師を直接指導する役割を持つプリセプターや病棟師長など様々であった。自己開示に至るまでの過程には①【病棟の雰囲気を感じとる】②【関心の程度を感じとる】③【知らせる相手を見極める】④【自分の思いや気持ちを知らせる】という4つの段階があった。その結果、【仕事への原動力が生まれる】という自己開示の効果が得られた。

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  • 韓国の国際協力政策の再構築-「国際開発協力基本法」制定を中心に

    姜 宇哲 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    韓国は2010年に開発援助委員会に加盟して正式な開発援助供与国として注目されるようになった。韓国の途上国支援は1960年代からはじまり、実施機関の設立、予算拡大、体制整備などの変遷を辿ってきた。本稿は日本でも実現をみていない国際開発協力基本法制定の背景を分析した上で、韓国の国際協力政策において基本法制定がどのような意味を持つのかを明らかにした。具体的には国際協力政策を巡る内圧と外圧という歴史的経緯に注目して制定に至るまでの過程を分析した。基本法制定が援助政策を巡る国内の政策課題を改善すると同時に、国際的基準を満たしたことを示した。

自由論題研究ノート
  • 差分代数におけるOstrowski-Kolchin-Hardouin 定理の別証明

    小川原 弘士 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)

    本論文ではHardouin によるOstrowski-Kolchin の定理の差分化の別証明を与えた。K を標数0 の体、 (L, τ) を(K, τ) の差分拡大とする。(L,τ) と(K,τ) の不変体をそれぞれCL, Cと表記し、C は代数閉体とする。L の0 でない元x1, . . . , xm, y1, . . . , ynがu1, . . . , um, v1, . . . , vn ∈ K に対して τ (xi) = uixi,τ (yj) = yj + vj を満たすと仮定する。このとき差分化された定理は次のように記述される: x1, . . . , xm, y1, . . . , yn がKCL上代数的従属ならば、ある0 でない元a ∈ K が存在してτ (a)= (?mi=1 uiki ) a となる0 でない (ki) ∈Zmが存在する、または τ (a) = a +Σnj=1 ajvj となる0 でない(aj) ∈ C n が存在する。

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書評
  • 『新・現代アフリカ入門-人々が変える大陸』 -勝俣 誠 著、岩波書店(岩波新書1423)、2013年4月刊、250頁

    評 岡部 光明 (慶應義塾大学名誉教授)
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