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地域研究リテラシー:SFC における現在と展望

KEIO SFC JOURNAL Vol.24 No.2 地域研究リテラシー:SFC における現在と展望

2025.03 発行

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特集

地域研究リテラシー:SFC における現在と展望

特集【第1部】招待論文・報告

    [実践報告]

  • 地域研究を学ぶ-インドネシアでの特別研究プロジェクト

    野中 葉(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

    筆者がインドネシアで実施する特別研究プロジェクト「東南アジア共生プロジェクト―インドネシアフィールドワーク」を、SFC で地域研究の素養を教える教育の一形態と位置付け、昨年実施した「特プロ」での参加学生たちのミーティングでの発言や成果物の分析を通じて、その成果を検証した。これによれば、本「特プロ」は学生たちに地域研究のエッセンスを教える科目として一定の効果があり、またSFC での言語教育や研究会での研究、関連する講義科目などと連携し、継続的な学びの一つとして実施することで学習効果が大きいことが分かった。

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  • [実践報告]

  • 日本の中東研究とアラビア語教育 -文化とコミュニケーション重視のSFC アラビア語教育の可能性

    山本 薫(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

    日本は戦前・戦中の植民地主義を支えた国策としてのイスラーム研究を反省し、現地社会に密着した中東地域研究を戦後に発展させ、それに伴いアラビア語の需要も高まってきたが、いまだ文法・読解中心のアラビア語教育には課題が多い。一方、SFC では文化とコミュニケーションを重視したアラビア語教育に取り組み、実践コミュニティを意識したプロジェクト型授業「アラビア語キャンプ」などを通じて、アラビア語で人々がつながる地域への関心と深い理解を育み、そこでの問題解決に寄与できるような交流へとつながる言語教育を目指している。

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  • [総説・レビュー論文]

  • 地域研究と応用言語学とのあいだで-スペイン語の/からの越境

    藤田 護(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    本稿では、地域研究と言語教育は常に分断を伴う不安定な関係にあったとの認識から出発し、スペイン語圏地域研究と言語教育のより実り多い連関の可能性について探求するために、スペイン語やスペイン語圏の応用言語学と社会言語学の様々な研究領域がスペイン語圏地域研究と通底し、スペイン語教育に新たな課題と視角をもたらすことを提案する。そのために、スペイン語の複中心性、脱植民地化と代表性、包摂的言葉づかい、移民社会における継承言語教育、地域言語・先住民言語の新話者の登場という5 つの研究領域に着目し、具体的に最新の研究動向が地域研究と言語教育のどのような相互連関をもたらすかを検討する。

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  • [実践報告]

  • 朝鮮語を学び、使い、朝鮮語で世界を見るということ-SFC 朝鮮語研究室の教育実践を例に

    髙木 丈也(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)
    柳町 功(慶應義塾大学総合政策学部教授)
    徐 旻廷(慶應義塾大学総合政策学部訪問講師)

    本稿はSFC 朝鮮語研究室が実践している教育について海外研修、特別研究プロジェクト、講演会、電子教材開発、学術活動という観点から報告するものである。一連の事例報告を通して、言語を学ぶという営為そのものが、単に言語習得という枠組みを超えて、人間関係の構築や情報収集、「現場」という最前線へのアクセスのために必要な方法を総体的に学ぶ場となっていることを示す。

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  • [実践報告]

  • 地域研究の視点から捉える言語教育の位置付け -SFCドイツ語教育における実践事例

    藁谷 郁美(慶應義塾大学総合政策学部教授)

    本稿ではSFC のドイツ語教育を地域研究とのつながりから捉えなおす。初級レベル科目からスキル・講義科目、海外研修、フィールドワーク活動に関連する事例を交えつつ、言語習得活動が研究活動につながる接点を、教材開発と運用・実践の面から提示する。母語以外の言語学習が複言語・複文化的視点の獲得を導き、学習者の問題意識に多面的な相対化を促す点に重点を置く。

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  • [実践報告]

  • 「新しい伝統」の継承と更新 -SFCフランス語研究室の実践と取り組み

    西川 葉澄(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

     慶應義塾SFC のフランス語セクションでは、SFC の先進的な言語教育の伝統を受け継ぎ、フランス語とフランス語圏の多様性に対応することを教育目標としてフランス語科目の授業運営を行っている。本論では、現在のフランス語科目がSFC の伝統にどのように立脚したものであり、どのような要素が継承され、どのような新しい更新がなされたかを紹介する。また、新しい試みについては、その意図や狙いを示しながら実践報告を行い、複言語・複文化主義的価値観の尊重という観点から、今後の言語教育のあり方について考察する。

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  • 特集【第2部】招待論文・報告

      [総説・レビュー論文]

    • 学術研究と政策決定を架橋する地域研究 -現代中国政治研究の視点から

      加茂 具樹(慶應義塾大学総合政策学部教授)

      本稿は、地域研究という学問が担う学術研究と政策決定とのあいだを架橋する役割について、権威主義国家中国の政治研究を事例として論じる。およそ30 年の時間を経て、国際社会が共有する国際秩序観は、「民主主義の台頭と権威主義の後退」から「権威主義の台頭と民主主義の後退」へと転換した。日本がいま、直面している国際政治にかかる重要な政策課題は、台頭する権威主義国家中国と如何に向き合うかである。地域研究は、権威主義政治へのステレオタイプを克服し、対中政策にかかる豊かな政策選択肢の構築と柔軟な政策展開を促すための知的基盤を提供する。

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    • [総説・レビュー論文]

    • 国際政治と現実をつなぐ地域研究の意義と課題 -旧ソ連地域研究の視点から

      廣瀬 陽子(慶應義塾大学総合政策学部教授)

      本稿は、国際政治理論と現実の状況を結びつける上での地域研究の重要性と、それに伴う課題を、旧ソ連地域を事例として検討する。地域研究と国際政治の理論は緊密な関係を持っており、特に、紛争研究などでそれは顕著に見られる。近年のロシアによるウクライナ侵攻などの事象は、この学問分野が抱える重大な課題と限界を浮き彫りにしたが、そもそも地域研究の障害も少なくない。地域研究の重要性とそれらの問題を共に指摘し、地域研究が現地の情報に基づいた効果的な国際政策を形成するための示唆を提供する。

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    • [総説・レビュー論文]

    • 実践知としての地域研究のリテラシー -タジキスタンにおけるエネルギーアクセス向上を目指して

      稲垣 文昭(秋田大学大学院国際資源学研究科教授)

      本稿は地域研究に必要となるリテラシーについて、筆者が実施してきたJST/JICA SATREPS 事業など、課題解決型の研究での経験を軸に議論する。地域研究は、その地域的なものを明らかにすることが目的であるが、学際研究であるが故に固有のディシプリンを持たず、多様な手法をブリコラージュのように組み合わせることとなる。このブリコラージュを行う能力が必要なリテラシーであるが、人文・社会科学系だけではなく自然科学、工学の知見をも巻き込む必要があり、それらの専門家と問題関心を共有し賛同を得るための能力もリテラシーとして必要になる。

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    • [研究ノート]

    • 地域研究ノート -特権的立場とエキスパートの立場から

      ヴ・レ・タオ・チ(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

      本論文では、障害者とその家族や低収入住民による日常の維持の現地調査を、ベトナムなどで進めながら筆者が気付いた、観察を支える地域研究には欠かせない二つの立場を検討する。まず、物理的な空間ではなく、社会的・物理的環境から歴史的背景にいたるまで、自分たちの生き方を通して人間が主観的に表現する地域をキャプチャーする「特権的」な立場がある。他方、専門的・科学的な知識に基づいて地域を構築しようとする「エキスパート型」の立場がある。地域研究の実践の場ではこの二つが絡み合いながら観察を活性化しているのである。

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    • [研究論文]

    • ライシテの変容 -共和主義の逸脱か現れか

      宮代 康丈(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

      近年のフランスでは、共和国を支える理念の一つであるライシテの捉え方が変わりつつある。本論考では、この変容とフランス共和主義の関係を、共和国とライシテの連関、およびライシテとネーションの連関に注目しながら検討したい。第1 節では、ライシテを「フランス的例外」と見なす議論を分析する(1)。次に、ライシテの共和主義的構想を明確にする(2)。第3 節では、その共和主義的構想からどのようにネーションの問題が提起されるのかを明らかにする(3)。

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    • [研究論文]

    • 「選挙とメディアのアメリカ化」をめぐる東アジア事例検証の試み -台湾とアメリカの選挙動画広告の比較

      渡辺 将人(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

      アメリカでは1950 年代以降、テレビ広告を中心にした「メディア中心選挙」が浸透し、1990 年代以降はケーブルテレビの発達で保守、リベラルの政治討論がアジェンダ設定機能を高めた。こうした「選挙とメディアのアメリカ化」の国際的拡散様態の研究はアジアの事例では必ずしも進んでいない。本稿は台湾の選挙におけるメディア戦略、とりわけテレビCM (動画広告) のアメリカとの共通点と相違点、ネット時代における発展を記述し、政治コミュニケーションにおける「アメリカ化」の東アジアの民主主義への浸透と限界の一例を示す。

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    • [研究論文]

    • 「エリア」としての宇宙 -混雑、戦闘領域、シスルナ空間

      福島 康仁(防衛研究所主任研究官)

      本稿では、宇宙がエリア・スタディーズの対象として関心を集めるようになる未来を念頭に置きながら、その前段階として現状において宇宙はエリアという観点でどのような政策課題に直面しているのかを分析・考察している。近年、宇宙空間の混雑、戦闘領域化、シスルナ空間の開発利用という3 つの課題が顕在化している。これらの課題には米中両国の活動が深く関わっている。宇宙で人々が継続的に居住できる環境を整えるためには、これらの政策課題への対応が不可欠である。

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    • [研究論文]

    • 「アラブの春」の終わり? -中東・北アフリカ諸国における政治変動・紛争の地域的影響

      小林 周(日本エネルギー経済研究所中東研究センター主任研究員)

      「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカ諸国における政治変動は、独裁体制の崩壊や民主化にとどまらず、各国で内戦・紛争や統治の崩壊をもたらした。また、「アラブの春」により生じた「力の空白」は、域内諸国の緊張を高め、地政学的競争を激化させた。さらに、テロリズムや移民・難民問題の国境を越えた拡散、非国家主体の台頭、大国間競争との連動により、国際政治にも大きな影響を与えた。近年は各国で権威主義体制が復活し、内戦・紛争が長期化していることから、「アラブの春」の終わりと呼べる状況が生まれている。

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    • [研究論文]

    • 日本の夜を拡張する -インターネットと都市の盛り場、2 つのナイトライフの交差

      菊地 映輝(武蔵大学社会学部准教授)

      本論文では、日本におけるナイトライフに関する議論を再検討し拡張することを目的に、インターネット空間上で行われるナイトライフに着目した。まず、日本においてナイトライフとほぼ同義である盛り場にまつわる議論を整理し、大正時代からバブル崩壊までの都市の盛り場とナイトライフの歴史を概観した。その上で、これまで扱われてこなかったインターネット上に誕生したナイトライフの存在を指摘し、それが都市の盛り場でのナイトライフとどのように交わるかをビットバレーの成立期を事例として検討した。

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    • 特集投稿論文・報告

        [実践報告]

      • 「地域政策」でアフリカ入門を実施して -アフリカ地域研究のススメ

        國枝 美佳(U Can Do IT 合同会社代表社員)

        SFC の「地域政策」の授業ではアフリカの教育、保健医療、文化、自然環境、インフラ、経済、雇用、技術革新を学び、欧米、中国、日本の対アフリカ地域政策についても考えてきた。アフリカの若い人口、多様な価値観や行動に触れることでいろいろな可能性を見ることができる。慶應義塾は近年、「未来先導」するリーダーや起業家の育成、イノベーションに力を入れていて、アフリカに学ぶことが多い。

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      • 自由論題投稿論文・報告

          [研究論文]

        • クラスサイズ縮小が生徒の学校生活における満足度に与える影響

          杉田 壮一朗(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

          クラスサイズ縮小が学力に与える影響を検証した先行研究は数多く存在するが、一貫した合意は形成されていない。本稿ではTIMSS の2011 年におけるデータを用いてクラスサイズの予測値を用いた操作変数推定を行い、「生徒の学校生活における満足度」に対するクラスサイズ縮小の効果を明らかにした。推定の結果、学校生活に対する安心や帰属感に対して統計的に有意な効果が認められた一方、学校生活におけるいじめに関連する変数に有意な効果は認められなかった。この結果は、先行研究においていじめ被害に対するクラスサイズ縮小効果が認められないことと整合的であり、学力向上を意図した教育生産関数のインプットとは異なる側面がクラスサイズ縮小政策にあることを示唆している。

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        • 自由論題投稿論文・報告

            [研究ノート]

          • 超音波ネブライザーを用いたアフリカツメガエルにおける肺線維症誘発手法の確立

            木田 隆成(慶應義塾大学総合政策学部4年)
            森川 拓海(元・慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
            山田 眞路(ヒューマンライフコード株式会社・研究開発担当)
            原田 雅充(ヒューマンライフコード株式会社・代表取締役社長)
            黒田 裕樹(慶應義塾大学環境情報学部教授)

            代表的な実験モデル生物であるアフリカツメガエル(以下、ツメガエル) は、哺乳類の病気モデルの代替として有望視されている。本研究では、市販の超音波式加湿器のネブライザー部品を改良し、ツメガエルに任意の気体を吸入させるシステムを構築した。このシステムを用いて、肺線維症を誘発する薬剤であるブレオマイシンを吸入させ、肺への影響を観察した。その結果、吸入開始から4 日後に、顕著な肺の縮小および炎症が確認された。今後、このシステムは、両生類成体を用いた新しい病理モデルとしての応用が期待される。

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