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- KEIO SFC JOURNAL
- Vol.10 No.2
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戦略的多国間主義から制度的多国間主義へ-冷戦後中国の多国間外交の発展
牛 仲君 中国外交学院准教授 外交と国際レジーム(International regimes)の関係からみると、多国間主義は戦略的多国間主義と制度的多国間主義に分類することができる。前者は外交の実践性と有用性を強調し、後者は国際レジームと国家利益の相互関係を重視する。冷戦終結後、中国自身の国力、国際的な影響力と地位の変化にともなって、国際レジームに対して選択的関与から全面的関与を経て、改革と創造の模索段階に入ることで、中国の多国間外交は戦略的多国間主義から制度的多国間主義へといたる過程にある。
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「六四」の青年から「四月の青年」へ、「抗議」から「防衛」へ-中国人青年の20年間におけるナショナリズムの変遷
楊 麗君 シンガポール国立大学東アジア研究所研究員 本稿の目的は、国家と社会の相互関係という視点から現代中国におけるナショナリズムの変化を解釈することである。ナショナリズムは国家と社会の相互作用の結果であるだけではなく、その重要度とインパクトも両者の相互作用によって決定される。国家と社会の相互作用のかたちが異なったことから、改革開放以来のナショナリズムには三つの波があったと考えられる。1970年代末から1989年の天安門事件までに生じた第一の波は「リベラルナショナリズム」である。第二の波の「愛国ナショナリズム」は江澤民時代(1989-2002)に現れた。第三の波の「ソーシャルナショナリズム」といわれるものは胡錦濤時代に現れたものである。
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ポスト冷戦期の中朝関係:連続と非連続
李 熙玉 成均館大學校社會科學部政治外交學科教授 本稿は、冷戦構造が崩壊した後の中朝関係の現状と展望について、その連続性と非連続性に注目して論じたものである。第一に、長期的な観点で見る場合、中朝関係の行方は朝鮮半島の将来シナリオと関連している。中国は「現状維持プラス」を追求してゆくであろう。第二に、北朝鮮の戦略的防壁の意味が弱まる結果、中国にとって北朝鮮の存在は負担になるだろう。その意味において中国が最小限度の支援を除いて対北協力を限定的なものにすると思われる。第三に中朝関係は、現在の不透明な関係を曖昧に維持(muddling through)しながら、多様な国際的な変数の影響を受けながら中国と北朝鮮の両国は摩擦と協力を繰り返すであろう。
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両岸関係20年の展開と展望
范 世平 国立台湾師範大学政治学研究所所長・准教授 1990年から2010年までの過去20年の間、台湾と大陸中国の国内政治環境は、非常に大きく変化をした。こうした国内政治環境の変化は、同時に、台湾と中国大陸との間の関係(両岸関係)に大きな変化をもたらした。本稿の目的は、両岸関係の政治的変化と展望を明らかにしようとするものである。
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中国におけるインターネット規制-党国体制下における情報のコントロール
土屋 大洋 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授 中国は従来からマス・メディアの規制をしてきたが、インターネットはマス・メディアとは異なるメディアであり、これまでとは異なる規制方式が必要になる一方、中国人民は一層のメディア開放を求めている。党と国家の癒着と二重支配という意味での「党国体制」から見たとき、中国共産党政権の反応は選択的なインターネットの利用であり、規制の継続にならざるを得ない。2010年のグーグルと中国政府の対立は、中国のインターネット規制に再び注目を喚起することになったが、経済発展を可能とする範囲での選択的利用となるだろう。
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中国の軍事支出のトレンド推計-状態空間モデルによる接近
土屋 貴裕 慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問) 防衛大学校総合安全保障研究科後期課程特別研究員 中国の軍事支出は、公表国防支出の約1.4倍から24倍とまで言われており、国際社会の計上とのズレが生じている。中国の軍事支出を観測される国防支出から推定される未知のパラメータとして捉えた場合、(1)国防支出の自己回帰的側面による変動、(2)経済成長による影響とそれに伴う変動、(3)その他の変数による影響とそれに伴う変動、によって規定される状態変数であると考えることが可能である。そこで本稿では、中国の軍事支出のトレンド(成長率)が、これらの変数によって説明可能かどうかを、状態空間モデルによって検討する。
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現代中国地方政治における政治的つながりの可視化-江蘇省揚州市人民代表大会における議案提出行動を事例に
加茂 具樹 慶應義塾大学総合政策学部准教授 土屋 大洋 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授 本稿は、ネットワーク分析の手法を用いて現代中国の代議機関である人民代表大会(人代)の代表の政治的つながりの可視化を試みた。人代代表は選出された選挙区の利益を表出する議案を提出する。また人代代表は政治的あるいは経済的な利益を共有する人代代表と共同して議案を提出する。先行研究によれば、積極的に議案を提出する人代代表は、中国共産党党員であり、かつ政治的にも社会的にも高い地位にある人代代表であった。しかし本研究の成果によれば、こうした人代代表よりも、中国共産党員ではない、政治的にも社会的にも決して地位の高くない人代代表が積極的に議案を提出していた。
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社会規範としてのライフデザイン-「自立した個人」の創出と生活設計・生涯設計の政策的展開
権 永詞 慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問) 1970年代後半以降の福祉見直しの時代の中で、生活設計・生涯設計は個人による私的・選択的行為から、社会的に重要性を持った規範的行為へと変容した。行政主導の生活の再編は、「自立と自助」という新しい価値の下で、「生きがい」政策の転換や社会指標の充実化を通じて個人による生活設計・生涯設計の政策的な推進を図った。生活設計・生涯設計の社会的重要性は高まりつつあり、この過程でライフデザインという具体的な実践方法の開発・導入が民間組織を中心に進められている。一方で、生活設計・生涯設計が規範的な性格を持つことで、デザイン能力の格差が物質的な不平等を生み出す可能性があり、これが新しい政策課題として指摘される。
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カナダにおける地域間対立とドル化論争の意義-連邦政府とケベック州、西部地域の対立の観点から
松井 謙一郎 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程 1990年代末に米州全域では、自国通貨を廃止し、ドルを法定通貨とするドル化政策採用を巡るドル化論争が盛り上がった。本論文は、カナダでのドル化論争の意義を国内の地域間対立の観点から分析し、1)歴史的に連邦政府からの強い独立志向を持ってきたケベックでは他州と異なって北米通貨同盟よりもドル化が支持されたが、中央政府への強力・重要な牽制手段としてのドル化という意識が背景にあった事、2)発言権が弱かった西部地域にもケベックとの協調や決定票を握る形での通貨制度選択への関与と国内での影響力拡大の余地が増えた事を示した。
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