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- KEIO SFC JOURNAL
- Vol.17 No.2
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国際化を推進する学内制度
小尾 晋之介 (慶應義塾大学理工学部教授) 大学の国際化を促進するためには留学生の受入れと派遣をスムーズに行えるような学内制度の整備が求められる。EBA コンソーシアムを通じた活動では従来の学期ごとの学生受け入れや派遣の制度では対応できない場面が多々あり、その対応のための「協定学生」を全学的に学則として定めるに至った。一方、学生派遣の充実のためにはカリキュラムとの統合が重要だが、現状では4学期制の部分的な導入にとどまっている。制度設計においては局所的な最適化だけでなく、コンソーシアムとしての学生の流動性を確保する全体像に常に気を配る必要がある。
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大学の国際連携におけるカリキュラムと単位化
植原 啓介 (慶應義塾大学環境情報学部准教授) EBAコンソーシアムは大学の国際協力の下、共同で学生を育てることを目的として設立された。しかし、実際に活動を始めると学年度やカリキュラムなどで大きな障壁があることが明らかになった。そこで、EBA コンソーシアムはカリキュラムの不整合を解決するためにサティフィケートプログラムを導入したり、共同で学生を育てるために遠隔会議システムを導入するなどして、これらの問題を解決してきた。更には、慶應義塾大学においては協定学生と呼ばれる新しい仕組みの導入に貢献した。その結果、EBAコンソーシアムの下で学生はサティフィケートを授与され、自分の獲得したスキルを外に向けて示すことができる仕組みが確立した。
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エビデンス・ベースド・アプローチ -高等教育における一つのイノヴェーション
ヴ・レ・タオ・チ (慶應義塾大学総合政策学部特任講師) 本論文は優れた人材育成という高等教育の要求に対する想像力に溢れる回答としてのエビデンス・ベースド・アプローチ(EBA)を論じる。SFCでのプロジェクト設計から問題解決までの実践を重視した教育経験を活かして設計されたEBAが、通常の教室、インターネット等のサイバースペース、そして政策課題の現場という三つの環境を統合的に提供することにより、学生が独自の個性を洗練化し潜在能力を開花させることができることを明らかにしている。そのコアとなるのが、講義などを介して得られる知識と、経験を通して得られる知識の相互連携と統合である。
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EBAビジネスフィールドワークの設計 -日本企業のIoT資源とアジアのトップ大学の人材を繋ぐ
梅嶋 真樹 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授) Supanuch Supanimittrakul (慶應義塾大学SFC研究所上席所員) Natawut Nupairoj (チュラロンコン大学工学部助教授) Chaodit Aswakul (チュラロンコン大学工学部助教授) Manoj Lohatepanont (チュラロンコン大学工学部助教授) Kultida Rokviboonchai (チュラロンコン大学工学部助教授) Internet of Things (IoT)のアーキテクチャにおいては、オープンとクローズという2つの戦略が利用可能である。IoT 化への対応が注目される家電製品は、システム間を接続するインターフェースの設計において長らくクローズドな戦略を採用してきた。しかし、現在、注目すべき新しい局面が観察されている。 第一に、オープンインターフェースを採用する家電製品が増加し、それらが相互接続したHome Energy Management System (HEMS)が普及してきた。HEMS は、エネルギーインフラにおけるエネルギー使用量のピークデマンドコントロールを家庭側で可能にさせる新たなシステムである。第二に、ASEANの高等教育機関がプラットフォームを提供することによって、ECHONET Liteのようなオープンな技術がASEAN内で普及する上で重要な役割を果たすようになってきたことである。 オープンな技術が普及する上で、その担い手である技術者育成は、システム全体の相互運用性を確保するための研究、新しい技術の社会展開のための制度の研究と同様に大学の重要な役割である。1990年代のインターネット・イノベーションにおいては、大学における教育と実証的研究は、TCP/IPやHTMLなどのオープンな技術の普及に重要な役割を果たした。 EBAビジネスフィールドワークは、学生、大学、企業、政府の4つの異なるプレーヤーが協力することを志向して設計されたプラットフォームである。本論では、1) 大学がIoTにオープン技術を導入することを支援する、2)企業が奨学金付きのフィールドワークの機会を学生に提供して大学教育に参加する、という2つの目的を実現したこの萌芽的な取り組みを論じる。
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EBAにおける遠隔日本語授業の取り組みと今後の課題
松本 久仁子 慶應義塾大学は、2012年度に文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」に採択された。本稿は、その構想である「アジアの新出課題解決に向けたエビデンスベースドアプローチ大学コンソーシアム」の中で、2014年から3年間にわたって実施した遠隔日本語授業の取り組みと今後の課題について論じたものである。まず、授業実施に向けた準備作業と初年度の取り組みについて述べる。続いて、初年度の反省をもとに、続く2年間で実施した取り組みについて述べる。最後に、3年間の取り組みを振り返り、今後の課題を挙げる。
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SFCにおける遠隔コミュニケーション環境の進化と、国際的な大学間連携
工藤 紀篤 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教) 大川 恵子 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授) 村井 純 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長/慶應義塾大学環境情報学部教授) 国際的な競争力を持った大学にとって、国内外の他大学との大学間の単位互換やダブルディグリープログラム等の大学間連係は、教育の質向上に必要不可欠である。遠隔コミュニケーション技術の発展により留学や物理的な移動をせずとも、遠隔授業や会議を通した大学間交流が可能となり、オンラインでの国際的な連携によるCOIL型の授業による交流にも期待が集まっている。本稿ではSFCにおける遠隔コミュニケーション環境の軌跡と、現在の環境またその活用事例について述べる。
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高等教育における多国間かつ学際的なワークショップのデザイン -EBAプロジェクトでの実践活動を通して
明石 枝里子 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科後期博士課程) 宮北 剛己 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科後期博士課程) 本研究ではEBA大学コンソーシアムが提供するEBAフィールドワークにおいて、フィールドワークと連動し実施するEBAワークショップをデザインし、その有効性を検証する。本ワークショップは、EBAの基礎を理解する事に加え、地理的に分散し専門性も異なる参加者が共に学び合い、フィールドワーク終了後も協働して地域の課題解決に取り組むことのできるスキルを養成することを目的とする。本稿では2014 年8月から2017年3月に実施された25のフィールドワークを対象にワークショップのプログラム内容とその効果を考察する。
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建国初期の中国における対日政策(1954-1956) -対米関係の視点からの考察
廉 舒 (慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師) 本稿は対米関係の観点から、1954年から1956年までの中国の対日政策を検証するものである。中国は、アメリカの対中国政策を覆すために、日本に対して関係を正常化させることでその中立化を図ろうとし、日米間の対立点を利用して日本の国民を味方につけようとした。この時期における中国の対日経済政策および戦犯釈放措置にも、対米関係を見据えて行われたという側面が見られる。中国の対日政策は多くの点において対米関係の一環として展開したのである。
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日本の高校生の英語圏交換留学参加決定プロセス -アメリカの場合
岩本 綾 (信州大学全学教育機構非常勤講師/慶應義塾大学SFC研究所上席所員) 本研究は、日本の高校生がアメリカへの交換留学に参加を決めていくプロセスを明らかにする。アメリカへの高校交換留学経験を持つ大学生10人にインタビュー調査を行い、M-GTAで分析した。その結果、《国際的キャリアビジョンからの逆算》と《過去ベースの西洋英語圏志向》という2つの動機が、場合によっては《受験優先規範からの解放》の影響も受けて、《アメリカ高校留学の決意》へと進展する、というプロセスが明らかになった。高校留学、特に交換留学を促進するための支援策を探る。
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脱ハラール認証を推進する「情報提供型おもてなし」の取り組み -福岡マスジド、名古屋モスク、慶應義塾大学イスラーム研究・ラボの事例を通じて
戸田 圭祐 (慶應義塾大学SFC研究所上席所員) 増加するムスリム観光客への対応に際し、日本では「ハラール」やハラール認証に対する注目が集まる一方で、ムスリムたちによる脱認証の動きが存在する。本稿ではこうした動きの中から福岡マスジド、名古屋モスク、慶應義塾大学イスラーム研究・ラボを取り上げる。彼らの活動は「情報提供型おもてなし」と呼ぶことができ、「ハラール」をイスラームの教えと日本の現状に即したものに位置づけ直そうとする試みである。またこのおもてなし方法には事業者と消費者の双方にメリットが存在する。
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