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音楽と科学

KEIO SFC JOURNAL Vol.20 No.2 音楽と科学

2021.03 発行

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特集

音楽と科学

  • 巻頭言

    藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
     
特集対談
  • コロナ時代の音楽の実学

    村井  純(慶應義塾大学教授)
    真鍋 大度(慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授)
    司会進行: 藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
     
 
特集鼎談
  • 歌の科学

    北山 陽一(慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授)
    パトリック サベジ(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
    藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
     
 
特集招待論文
  • [研究論文]

    インドにおける音楽多様性 -カントメトリクスを用いた計算的予備研究

    大穀 英雄(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
    アンナ ロマックス ウッド(文化的平等協会代表 、アメリカ、ニューヨーク)
    パトリック サベジ(慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    社会内、また社会間において、どれほどの音楽的多様性が存在するのか。これに関しては複数の文化に及ぶ音楽比較への論理的な考察と共に、長年議論されてきた。Alan Lomax のカントメトリクス研究によって標準化された、多文化にわたる音楽的バリエーションのデータはGlobal Jukebox により新たに利用可能になり、それによりこのバリエーションを定量的に分析することが可能になった。本研究ではカントメトリクスの37の特徴に基づき、インドの伝統的な歌に対するケーススタディを行った。分析対象はインドの32地域から選んだ伝統音楽207曲である。主成分分析によって求められた、インド音楽のバリエーションを形成する主な要素が、Lomax が世界中の音楽に対する先行分析で求めた結果と一致した。このことから、インドに存在する歌唱法の複雑性が示される。異なる語族の話者(インドヨーロッパ、ドラヴィダ、南アジア語族)の間には、ごく小さな音楽的差異しか見られなかったものの、同じ語族内の複数社会の音楽を比較した際には、より大きなバリエーションが見られたのだ。また、地域的な伝統を直接経験した音楽家と共同研究をすることによって、定量分析はより強固なものになり、さらに地域的な音楽学上の問いに対しても適用可能であることが示された。

     
  • [学会動向]

    音楽家のための身体運動医科学 -ダイナフォーミックス

    古屋 晋一(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー・プログラムマネージャー /ハノーファー音楽演劇メディア大学客員教授/上智大学特任准教授/関西学院大学客員教授

    音楽と神経科学の研究分野であるNeuromusic は、過去30 年の間に急速に成長してきた学際領域である。北米や欧州での盛り上がりとは対照的に、日本をはじめとするアジアにおけるNeuromusic の認知度は未だ高くない。本稿は、Neuromusic の歴史や対象を概説した後、当該領域の中でも特に研究が遅れている演奏研究の過去・現在・未来について論じる。

     
  • [総説・レビュー論文]

    精神疾患と音楽機能の関連性 -精神医学分野における音楽神経科学の発展可能性

    本多 栞(慶應義塾大学大学院医学研究科医学研究系専攻博士課程)
    野田 賀大(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任講師)
    中島 振一郎(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室助教)
    藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    精神疾患を罹患することにより、音楽のメロディーやリズム、和声などを知覚・生成する脳の音楽機能は、どのように変化するのだろうか。本稿では、サヴァン症候群・前頭側頭型認知症の精神疾患を罹患して音楽機能が亢進する事例、及び、うつ病・統合失調症を罹患して音楽機能が低下する事例を取り上げ、精神疾患の病態と音楽機能の関係性について概説する。さらに、現状における研究の限界と課題を指摘し、精神疾患患者に対する科学的エビデンスに基づいた音楽療法分野の開拓に向け、精神医学分野における音楽神経科学研究の発展可能性について述べる。

     
  • [総説・レビュー論文]

    感性科学の観点からみた新たな音楽環境づくりの可能性

    棚瀬 廉人(ヤマハ株式会社音響事業本部クラウドビジネス推進部)

    世界的な感染症予防とインターネット文明を融合したニューノーマルへの行動変容が、音・音楽の環境に及ぼす変化への対応を考える。ネット接続の物理空間を「オンライン環境」として再定義し、音を認知・学習するプロセスに及ぶ影響を論じる。実験室実験での従来型感性科学手法にクラウド技術を組合せ、非言語/ 感性情報からなる集合知による音響設計手段を示す。即ち、人文/ 社会/ 自然科学の総合知となるInternet of Human の概念や遠隔感性科学の可能性に言及し、産官学連携による音作り環境構築の加速を提案する。

     
  • [実践報告]

    Urban Composition -都市の現象を応用することによる音楽・サウンドアート表現の探求

    田中 堅大(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)
    藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    本稿では、未知なる次の音楽を創造することを究極の目的に、都市の現象を音楽・サウンドアート作品へと応用する「都市作曲(Urban Composition)」の可能性を探求する。20世紀以降の都市におけるサウンドアートの歴史的文脈を概説し、都市と音楽の邂逅領域を明らかにする。また、筆者らが行ってきた都市作曲の実践を紹介し、都市空間と音楽の相互関係について考察する。最後に、実空間と情報空間が分かち難く結びつくことで「未知なる音楽(x-Music)」が創造される可能性を推論し、都市作曲の未来について展望する。

     
  • [研究論文]

    Creface -即興的創造を巻き起こす概念モデルの提案と実践

    魚住 勇太(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)

    テクノロジーの進化は、AIやロボティクス等、人間(生命)と機械の境界を曖昧化させている。その中、人間、生命や自然の「創造性」とは何かという問いは、芸術と科学双方の分野において、より差し迫った問いとして重要性を増している。その参照点のひとつとして、マルチエージェント、身体性認知科学や群ロボット工学といった潮流は、創造的な振る舞いが、環境との相互作用と不可分である事を指し示している。本論では、筆者のサウンドアート領域での取り組みを起点に、「即興的創造」を設計するための1つの概念モデルを提案する。即興的創造とは、即興音楽のように、手戻りが許されず中央集権的制御がない状態で創造を達成する振る舞いを指す。創造の一つの極端な形態であり、これを可能にする仕組みを実現しようとすることで、「あり得たかもしれない音楽、あり得る未来の音楽」を思考・実験する構成的アプローチを実現する。さらに、その3つの実践事例を考察する。これらは、即興性に設計性を取り込んでいくプロセスであり、表現領域を越境し、議論やアイデアを触発し得る可能性を論じる。

     
  • [研究論文]

    AI は創造性を持ちうるか -生成的敵対ネットワークを拡張したリズム生成モデルを実例に

    徳井 直生(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)

    人工知能(AI)の社会実装が進む中で、アートやデザインといった表現領域でのAIの活用が模索されている。特に生成的敵対ネットワーク(GAN)に代表される生成モデルを用いることで、まるで人が作ったかのような「それらしい」画像や音楽がAIによって生成できることが、すでに多くの研究・作品例で示されている。一方で、これらの生成モデルはあくまでも学習データに含まれる統計的なパターンを学習し再生産したものともいえ、その表現としての新規性、独創性に疑問を投げかけることも可能だ。  本稿では、こうした現状を考察するとともに、GANのフレームワークを拡張することで新しい表現、特に音楽表現を創出する手法を提案する。これらを通して、AIが単なる人の創作物の模倣ではない表現の創出に寄与する未来について考察する。

     
  • [研究ノート]

    芸術と科学への一考察

    脇田 玲(慶應義塾大学環境情報学部教授)

    筆者は2015年から「アート&サイエンス」をキーワードに芸術と科学を横断する活動を実践してきた。ヨーロッパを中心に、複数の企画展に招待され、作品を展示し、そこに関わるアーティスト、サイエンティスト、キュレータと対話を続けてきた。本稿では、その活動から得られた経験的な解釈、そして後の文献調査から得られた分析的な解釈を記す。

     
 
自由論題投稿論文
  • [研究論文]

    大学のキャリア教育における学生の意識形成プロセスの探索的研究 -ライフストーリー・インタビュー実習に着目して

    正村 あづさ(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    本研究の目的は、大学のキャリア教育における社会人へのライフストーリー・インタビュー実習を通した、学生の意識形成のプロセスを探索的に検討することであった。分析焦点者19名の記述をM-GTAを援用し分析した結果、29概念と6カテゴリーが生成された。授業では内省活動と、他者との関わりを通した自己の探索により、2回に亘る構成・脱構成・再構成が行われていた。個々の洞察では、特徴的な4つのプロセスが示された。授業全体を通して、学生にはキャリア自律の一部とキャリア自己効力感が形成される可能性が示唆された。

     
  • [研究論文]

    2010年代におけるリトアニア民間防衛セクターとそのコンテクスト -ナラティヴ批判としての一試論

    大河原 健太郎(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)

    本研究の目的はリトアニアの民間防衛にかかる政策とそのナラティヴの分析である。多くの場合、近年のリトアニアの民間防衛はスイス的な総力戦的コンテクストによって論じられる。これは、ソ連期のレジスタンス戦などの記憶によっているもので、一定の正統性がある。一方で、リトアニアの国力や現状を整理すると、リトアニアの民間防衛はスイス的・ヒーロー的な総力戦というより、「自分の身は自分で守る」という領域に留まっている。何故なら総力戦を行うだけの国防力に欠けるからである。

     
  • [研究論文]

    投資協定の締結効果

    齊藤 安希子(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    栗田 治(慶應義塾大学理工学部管理工学科教授)

    本稿では、投資協定の締結によりどの国が「効果的」なポジションを築いているか、について考察した。締結済の投資協定の数が上位100の国を対象とし、各国が締結した投資協定数及び締結国のデータを用いて固有ベクトル中心性の計算式に基づき検証した。その結果、対象国のうち、投資協定の締結により中国が最も効果的なポジションを有している旨等を結論づけた。

     
  • [研究論文]

    文化の狭間で生きる子どもの言語学習とアイデンティティ形成 -在日アメリカ軍基地の学校におけるケーススタディ

    小池 俊乃(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)

    言語とアイデンティティは密接に関わっている。本研究は、文化やコミュニティの狭間で生きることと言語学習との関係性を明らかにすることを目的とし、在日アメリカ軍の学校のESL(第二言語としての英語)クラスで学んだ生徒を対象として、研究を行った。親の仕事のために様々な国を移動している彼らに対してエスノグラフィーの方法論を用いたインタビュー調査を行った結果、不安定な家族との関係性が言語学習に対する意欲に大きな影響を及ぼしていること、さらに狭間で生きる不安定さの特徴が明らかになった。