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ガバナンス論の現在

KEIO SFC JOURNAL Vol.1 No.1 ガバナンス論の現在

2002.06 発行

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論文
  • イスラームにおける宗教的義務の「法」的性格 -ガバナンス論構築への手がかりとして

    奥田 敦 慶應義塾大学総合政策学部助教授

    礼拝、喜捨、斎戒などのイスラームの信仰行為は、信者に固有な伝統に即した私的な行為とされがちであるが、それらは信者によって自発的に果たされる、あらかじめ定められた基本的な義務として社会に存立の基礎を与える社会的な行為でもある。人種、民族、国籍、階層などの違いを超えて信者のすべてに共有されているそれらの義務は、国家権力に拠らずに形成される「責務の第1次的なルール」である。イスラームの信仰行為に対するこうした認識は、「オリエンタリズム」後のイスラーム理解と、より包括的なガバナンス論構築へ新たな視座を開く。

  • トクヴィルによる自由民主主義の内在的批判

    宮代 康丈 慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師

    本稿は、『アメリカのデモクラシー』を政治哲学の観点から分析することで、トクヴィルの自由民主主義批判が内在的批判であることを明らかにする。トクヴィルは、社会の平等化が引き起こす諸々の危険を指摘し、近代民主主義に対する批判を展開した。しかし、その批判の意図は、自由と平等という近代の規範的理念の否定ではなく、むしろ自由民主主義の理念からの逸脱を問い質すことであった。すなわちトクヴィルは、反近代的価値に依拠して民主主義を批判したのではなく、近代的理念の実現に近づくための内在的批判をおこなったのである。

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  • 「環境知識」-その形態、機能、そして、結果

    吉田 浩之 慶應義塾大学総合政策学部専任講師

    環境に関する知識は、現代社会に於いてどのような機能を持っているのだろうか。環境知識は、合意のネットワークとして、「支配力」を持つが、「現実」に対するその効果は、蓋然的にならざるを得ない。「現実」の住人たちは、外来の環境知識の下で、生き、或は、死ぬ。彼らは、知識による「支配力」と、その外にある「自然力」との狭間に立つ。一方、ローカル・コミュニティにとっての死活問題は、研究/意思決定コミュニティにとって、科学/政治のゲームを行う素材に過ぎない。この構造は、様々な過程を通じて、その恒常性を維持し、環境知識のライゾームはその触手を伸ばし続ける。

  • 1990年代におけるポーランド環境改善に関する分析 -ガヴァナンス論の視点から

    市川 顕 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程

    1989年革命において環境運動は重要な役割を果たしたが、革命後は下火となった。しかしEU加盟を目指すポーランドは、経済発展を目指しつつ環境改善も図るという、厳しい政策運営に迫られた。90年代前半、国家環境政策の策定、ナショナル・ファンド、エコ・ファンドなどの制度的発展において、国家が重要な役割を果たした。90年代後半、EfEプロセスに呼応して、NGO、地方自治体などが積極的にアクター化した。ポーランドの環境改善プロセスは、多中心的社会へのシフト、分権化、市民社会の成熟を伴いながら、徐々にではあるが、着実に発展を遂げている。

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  • タイ東北部農村からの移動労働 -問題として、産業として、生活戦略として

    渡部 厚志 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程

    タイ東北部コンケン県での移動労働者と家族へのインタビューを通して、彼らの生活戦略を描く。政府の開発政策では、移動労働は、農村からの《流れ者》または外貨を稼ぐ《ベンチャー》の個人的行動と考えられ、開発政策の対象/手段とされる。一方、移動労働は世界規模の労働供給システムに動かされるのだという反論がある。しかし、フィールドから見えるのは、経済・社会の変化が農村の人々の身辺に現れる中で、人々が単なる政策の対象/手段に甘んじるのでもただ動かされるのでもなく、あらたな戦略(生活の手段や場所)を創る姿である。

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  • 仮想市場法の援用による現実的なノーマライゼイション 推進政策の研究-応能負担の優位性検証を中心に

    西山 敏樹 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程
    後明賢一 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程
    有澤 誠 慶應義塾大学環境情報学部教授

    我々は、仮想市場法を用い東京圏で市民が必要とする交通環境の障壁除去施策の内容とその必要技術量を貨幣尺度で客観的に計測した。筆者らは、東京圏の交通環境の特徴を適度に反映しつつも平均所得に差がある東京都国立市と神奈川県相模原市で社会調査を行なったが、ほとんどの施策で平均所得が高い国立市民の支払意思額が相模原市民の支払意思額より高く・応能負担・の優位性が実証された。

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  • インドにおける銀行改革の分析と評価

    白井 早由里 慶應義塾大学総合政策学部助教授
    ラジャセカラン・プリシパル アジア開発銀行研究所研究助手

    インドにおいて1991年以来実施されている銀行部門の改革は、従来、政府による規制が強く、金融抑圧的状況にあった銀行部門に望ましい影響をもたらしている。とりわけ、国有商業銀行のパフォーマンスは改善傾向を示しており、近年では民間銀行や外資系銀行と大差がなくなっている。こうした傾向に影響を及ぼしたプラス要因として、競争の激化、銀行業務の多様化、優先部門への信用割当制度の改革などがあげられる。しかし、銀行部門は依然として国有商業銀行による寡占的な状況にあることから、より抜本的な改革を早急に実施する必要がある。

  • 刀と鋤-平和維持活動における軍隊-NGOインターフェース

    ムロイ・ギャレン 慶應義塾大学環境情報学部訪問講師

    冷戦後の平和維持活動はその顕著な特徴として、軍隊、国連機関、NGOが連携し合うようになった。しかし、その紛争防止および復興支援の潜在力は依然として十分に引き出されてはいない。この論文は、その理由を探るために平和維持活動における軍隊、文官職員、NGO職員らの関係性を、要員選抜や活動を統治する命令の枠組みといった基本点を含めた特定の問題分野において検討する。そして、ジェンダー問題、訓練標準、任務階層の「構造的圧縮」への対処等が今後の課題として呈示される。

研究レポート
  • コーポレート・ガバナンスの研究動向:展望

    岡部 光明 慶應義塾大学総合政策学部教授

    本稿は、コーポレート・ガバナンスの捉え方自体を整理するとともに、その研究がなぜ近年活発化しているのか、その研究の特徴点、日本企業に特有のいくつかの論点、最近研究が進むいくつかの先端的領域、今後の研究課題、などを展望したものである。この分野の研究は、単一の理論的枠組みを適用することによって理解が深まるというよりも、むしろ各国の歴史的、社会的、文化的要因なども考慮した理解が不可欠であることを、全体として主張している。

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