KEIO SFC JOURNAL - Vol.17 No.1 2017



CONTENTS
特集:DesignX*XDesign
−未知の分野における新たなデザインの理論・方法の提案とその実践−
【特集:招待論文】
「意地悪な問題」から「複雑な社会・技術的問題」へ
−移行するデザイン学の研究、教育動向に関する考察

水野 大二郎(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
プロトタイピングを中心としたデザインプロセスにおける「推進力」と「展開力」の諸問題
−「Cultural Exciter」概念を参考として

田中 浩也(慶應義塾大学環境情報学部教授)
益山 詠夢(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)
青木 翔平(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教)
Activating the Physical
−インタラクティブマターとマテリアルインタラクション

筧 康明(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
新たなかたちのひろばの創造と三つの美学
−享楽の美・冗長の美・未完の美

中西 泰人(慶應義塾大学環境情報学部教授)
「建築家なしの建築」の建築家になるためのアルゴリズミック・デザイン
松川 昌平(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
「ラボラトリー」とデザイン
−問題解決から仮説生成へ

加藤 文俊(慶應義塾大学環境情報学部教授)
エピメテウス的人間と禅僧
−デザインによる本質的な問題解決のためのデザイナー像

脇田 玲(慶應義塾大学環境情報学部教授)
【特集:研究論文】
ものづくりのモデルとしての生活風景
石川 初(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
動物性タンパク質源である昆虫食のエネルギー的可能性
−その量産を目指すデザイン手法

オオニシ タクヤ(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
正多面体図法を用いた歪みの少ない長方形世界地図図法の提案
鳴川 肇(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)
Typeharvesting
−物理素材の経時変化を利用したタイプフェースデザイン

伊達 亘(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
筧 康明(慶應義塾大学環境情報学部准教授)
【特集:研究ノート】
アクターネットワーク理論のFabへの援用
淺野 義弘(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
田中 浩也(慶應義塾大学環境情報学部教授)
若杉 亮介(慶應義塾大学総合政策学部4年)
【自由論題:研究論文】
修学旅行とナショナリズム
−戦後の奈良・京都への旅行の再開・拡大過程

菅沼 明正(慶應義塾大学SFC研究所上席所員)
津島佑子『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』における口承の歌と物語
−不完全な記憶の中で生きていくために

藤田 護(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)
ABSTRACT

特集:DesignX*XDesign
−未知の分野における新たなデザインの理論・方法の提案とその実践−

特集:招待論文

  • 「意地悪な問題」から「複雑な社会・技術的問題」へ
    −移行するデザイン学の研究、教育動向に関する考察
    水野 大二郎
    (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    デザイン研究、教育の再定義を試みるべく、超包括的デザイン領域としての社会・技術的問題を対象とする実験的な研究が世界中のデザイン教育、研究機関において近年散見されるが、その理論や概念、手法などについて日本での既往研究は少ない。そこで本論は、デザイン学における実験的な研究が不明瞭かつ個別固有の社会・技術的問題を対象とする集団的実践としての「ありうる」世界をデザインする臨床的、生成的研究としてのResearch through Design (RtD)について分析、解説し、その上で、日本におけるRtDの受容と展望について考察する。
  • プロトタイピングを中心としたデザインプロセスにおける「推進力」と「展開力」の諸問題
    −「Cultural Exciter」概念を参考として
    田中 浩也
    (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    益山 詠夢
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)
    青木 翔平
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教)

    本論文では、著者の視点から、XD(エクス・デザイン)プログラムとファブキャンパスの慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)における進展と課題について述べ、その課題に対処するヒントとなる「Design Support for Creative Problems Solving in Developing Countries(発展途上国における創造的問題解決のための設計支援に関する研究)」を紹介する。この論文は、共著者のひとりである青木翔平によって2015年に執筆された博士論文であり、そこで提示された「Cultural Exciter」という概念がプロトタイピング文化とデザインをつなぐ鍵であることが示される。
  • Activating the Physical
    −インタラクティブマターとマテリアルインタラクション
    筧 康明
    (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    デジタルテクノロジーの影響力は画面の中に留まらず、物理世界へと染み出し、より多様な状況や問題Xに対して適用されようとしている。そこでは既存のバーチャルリアリティや拡張現実感技術のように情報の視覚的重ね合わせのみならず、実体を有するオブジェクトそのものをコントロールして物理世界に動的な変化を与え、より直接的に作用するインタラクションや関係性を生み出そうという流れが立ち上がっている。プログラマブル・マターやクレイトロニクスとしてかつて検討が進められてきたものが、群ロボットとしての具現化のみならず、HCIと材料科学の知見が融合することにより、変化を伴うマテリアルの創造及びそのインタラクション応用による新たな可能性が見えてきた。本稿では、筆者らのグループで取り組むマテリアルにインタラクティビティを付与するための取り組みと、マテリアルによって調停あるいは生み出されるインタラクションのデザインに関する事例などを挙げながら、その動向や今後に求められる課題についてまとめる。
  • 新たなかたちのひろばの創造と三つの美学
    −享楽の美・冗長の美・未完の美
    中西 泰人
    (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    様々な情報入出力機器の普及と性能の向上により、情報環境と物理環境の境目が曖昧になった空間が新たな現実空間となりつつある。本稿では、人々の自発的な参加により情報的に更新され続ける動的な系であるそうした環境が目指すべきものとして、丹下健三の言う「ソフトウェア・エンヴァイロンメント」を参照し、そのプロトタイピング手法として筆者らが提案してきた手法について述べる。そしてそれらが備えるべき性質を検討するにあたり、近代主義を乗り越えようとした建築家や文化人類学者達の論考を下に三つの美を取り上げる。
  • 「建築家なしの建築」の建築家になるためのアルゴリズミック・デザイン
    松川 昌平
    (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    バーナード・ルドフスキーは建築家のように顕名的な創造主体がいないからこそ「建築家なしの建築」のような自然発生的な建築群を創造できることを示唆したが、本論考では、筆者が研究・実践しているアルゴリズミック・デザインという建築設計プロセスの方法論を通して、「建築家なしの建築」のような建築群を、それでも建築家がどのように創造していけばよいのかという問題について基礎的な考察を行う。
  • 「ラボラトリー」とデザイン
    −問題解決から仮説生成へ
    加藤 文俊
    (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    われわれは、調査研究を遂行するために「ラボラトリー」を構成する。それは、個別具体的な〈モノ・コト〉と普遍抽象的な概念との橋渡しをする役割を担う実験的な環境である。「プロトタイピング」は、現実に先行して「可能な世界」を体験し、あたらしい仮説やビジョンの生成を促す環境として理解することができる。本稿では、われわれに馴染みぶかい「仮説検証型」の実験環境のみならず、「視点呈示型」の活動について触れ、思索と試行のなかで、絶え間なく「仮説生成」をくり返すことのできる環境づくりの重要性について論じる。
  • エピメテウス的人間と禅僧
    −デザインによる本質的な問題解決のためのデザイナー像
    脇田 玲
    (慶應義塾大学環境情報学部教授)

    デザインとは問題解決であるとしばしば言われるが、対象がどのような状態になれば問題を解決したことになるのかという点については議論も研究もほとんどなされていない。現代において、デザイナーは納品すれば問題が解決されたと考える傾向にあり、クライアントはデザインを自ら成す行為ではなく消費もしくは外注する対象だと考える傾向にある。本稿では、このような制度化されたデザインが作り出す「近代化された貧困」状態から脱却し、人が幸福かつコンヴィヴィアルに生きていくために求められるデザイナー像を検討する。

特集:研究論文

  • ものづくりのモデルとしての生活風景
    石川 初
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

    慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が2016年に発表した「FABキャンパス計画」は、デジタルファブリケーション機器やネットワークを統合的に編成し、キャンパス全体をものづくりを取りまく物質の循環の実験場とする教育・研究システムである。このような総合的な構想を理解し評価するために、総合的な生活風景「トータルランドスケープ」である農村集落における農家の営みを先行モデルとして比較することが有効である。本稿では徳島県神山町の山間部の農家の周囲に見られる日常的ものづくりの技術やそれを支える空間の構造、特に資材の分類や保留の過程を明らかにし、トータルランドスケープの観点から「FABキャンパス計画」、特にキャンパスの周辺環境を取り入れた物質循環の実践のための提言を行う。
  • 動物性タンパク質源である昆虫食のエネルギー的可能性
    −その量産を目指すデザイン手法
    オオニシ タクヤ
    (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    2070年に到達する100億人社会において、深刻な食糧危機が予想されている。特に動物性タンパク質の供給は今日のそれの170%以上だと試算されており、環境負荷の大きな既存の畜産業や漁業だけでこれらを賄うことは困難だと言われている。そこで注目されているのが昆虫食だ。本論文では、昆虫食の中でも特にコオロギに注目し、その量産性のメリットや、飼育システムの設計過程を紹介する。ここで実践を通して紹介されるロードマップは、今後の深刻な食糧危機の備えとして有益なものであると思われる。
  • 正多面体図法を用いた歪みの少ない長方形世界地図図法の提案
    鳴川 肇
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)

    球面世界の地理情報の視覚化のためには、平面上の長方形に収める世界地図図法が有用である。従来の図法では、面積の歪みが発生することや、任意の地域を地図の中心に再設定することが難しいなどの問題があった。本論文では、これらの問題を改善した、筆者が考案した世界地図図法について述べる。まず、正四面体を用いた多面体図法の操作によって、全方向に連結できる平面充填地図の作成が可能であることを示す。次に従来の地図図法との比較によって、この図法が長方形化の種類、面積と図郭線の比率、分割領域間の面積比の誤差、地図の中心の移動可能な方向数において優れていることを示す。次いで、この図法の特性を活かした用法として、歴史上の各時代の帝国の領土面積を一望できる地図を製作する。
  • Typeharvesting
    −物理素材の経時変化を利用したタイプフェースデザイン
    伊達 亘
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程)
    筧 康明
    (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

    本研究では、文字のタイプフェースのデザインプロセスにおいて、その形状を決定するための要因として物理素材の経時変化を「アルゴリズム」として組み込み、環境やユーザの介入を変数として利用するデザイン手法の提案をおこなう。今回は、物理素材及び現象として、水の乾燥・銅の酸化と塩化・タラヨウの葉の変色という異なる時間スケールを持つ対象に注目し、これらを用いてタイプフェースの造作を行うための装置設計及び実装を行った。結果物を示すと共に、ユーザへのインタビューを通してその利用可能性を議論する。

特集:研究ノート

  • アクターネットワーク理論のFabへの援用
    淺野 義弘
    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程)
    田中 浩也
    (慶應義塾大学環境情報学部教授)
    若杉 亮介
    (慶應義塾大学総合政策学部4年)

    デジタルファブリケーションが普及した現在、さまざまなスキルを持った背景の異なる人々が共創するコラボレーション型/コクリエーション型のものづくり「ソーシャルファブリケーション」が広まりつつある。ものやコミュニティのもつ価値が増し、社会と密接に関連したものづくりが進むなか、それを捉える手法は未だ確立されていない。そこで、1980 年代にフランスのラトゥールとカロン、イギリスのローの3人を中心に提起され、発展が試みられてきた「アクターネットワーク理論」を援用しながらその方法論の構築に取り組んだ。

自由論題:研究論文

  • 修学旅行とナショナリズム
    −戦後の奈良・京都への旅行の再開・拡大過程
    菅沼 明正
    (慶應義塾大学SFC研究所上席所員)

    戦間期から戦時期に「皇国の聖地」として観光客や修学旅行生を集めた奈良・京都は、どのように「日本文化の中心地」となったのか。本稿は、教員と文部省を中心とする「教育界」と国鉄と旅行業者を中心とする「交通・旅行業界」に焦点をあて、敗戦後の修学旅行の再開と拡大過程を検証し、教員と他のアクターの相互作用で奈良・京都が「日本文化の中心地」として旅行され、国鉄などにより、その旅行が広汎となったことを提示する。ナショナリズム研究における、国家によってつくられた「伝統」の「稼働」と「再稼働」の事例研究である。
  • 津島佑子『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』における口承の歌と物語
    −不完全な記憶の中で生きていくために
    藤田 護
    (慶應義塾大学環境情報学部専任講師)

    本論文では、津島佑子『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』について、そこで引用されているアイヌの口承文学に注目した読みを試みる。それにより明らかになるのは、語り手が姿を隠すにつれて前景化していく口承文学と口承史が、時代を隔てて複数の物語を繋ぐ様相であり、それぞれの時代に登場人物らが不完全な記憶の中で言語と物語を想起していく生き方である。同時にこのテクストが、先住民文化の継承に関するきわめて現代的な関心の下で、しかし植民地主義の長い時間の幅の経験をつなぐという、驚くべき野心的な試みであることが明らかになる。


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